分量的にも軽くて、筆運びもさらさらっとした感じなのに。さほど描きこまれた物語だとは感じないのに。ほとんど何も起こらないのに。
なのに…登場人物のひとりひとりが素敵で、みんな心に残る。
たった一夜の不思議が、ストーリー全体をうすい靄で覆ってしまったような、かすかなファンタジー感。
やはり綿密な構成力を松尾さんは持っているのだと感じる。
このストーリーは間違いなくファンタジー。猫が話す時点で、それは間違いない。しかし登場する人たちは、ほんの一歩すらも現実の外へは向かわない。
金色ピアスのフリッツと実際に話したカズヤでさえ、信じてもらえないに決まってるなどという、現実的そのものの冷静さで、そのことをミツルにすら話さない。仲直りをした両親と、何事もなかったように東京で暮らし始める。ひと夏の経験が彼を大人にした…とか特殊な何かが備わったとか、そんな非日常は欠片も訪れない。
誰もが普通に過ごす日常の中に一瞬紛れ込んで、すっと消えてしまう非日常。
そんな味わいが、この小説には、ある。
何よりも作者の構成力の確かさに、とても心惹かれている。もっともっと。そう感じさせてくれる作家さん。
あと一作読んで、作者への心象が変わらなければ、私はこの人の追っかけになりそうだ(笑)
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2014年5月28日
- 読了日 : 2014年5月28日
- 本棚登録日 : 2014年5月28日
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