ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2015年9月27日発売)
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大学院の卒業制作としてトースターを作り上げていく話。なぜトースターなのかというと、「近代の消費文化の象徴であるように思えるから」。
トースター作りの基本ルールは、
・お店で売っているようなトースターを目指すこと
・原材料から制作すること
・産業革命以前の手法を用いること
である。Dr.Stoneのような未開の地を想定し、そこからスタートしてトースターを作り上げていくわけではなく、あくまでも産業革命以前にあった道具と同じ役割のものを用いて制作していく。そういう意味で「文明再興」のような壮大なスケールではない。ただ、普通の生活を送る現代人が初めから作っていく様は、一人の人間がどこまで現代文明の一端に近づけるかという問いに対して向き合うために、それとは違った驚きと発見がある。

トースター制作には様々な困難に対峙する。例えば、鉄を作るために現代の冶金学の教科書を参照するが、大規模工場を前提とした知識ばかりで一人で作るには役に立たなかったり、プラスチックの原材料の石油を手に入れられなかったりなどである。
こうした出来事は、一人で完全に作り上げることが不可能であることを示唆している。つまり、今日の文明は他人の依存によって成り立っていることを教えてくれる。その事実を知れば、目の前にある工業製品に対する見方も変化することになるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年9月6日
読了日 : 2021年9月3日
本棚登録日 : 2021年9月1日

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