リヴァイアサン

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本棚登録 : 136
レビュー : 11
制作 : Paul Auster  柴田 元幸 
haircut1974さん  未設定  読み終わった 

『幽霊たち』他ニューヨーク三部作で知られるオースターの1992年の作品。
オースターの作風を時間軸で追っていくと、初期は完全に現実感の希薄なメタ世界で、その後段々と現実感が濃くなってくる。個人的にはメタな構造と乾いた文体が、きちんと現実の世界に降り立っている時の作品が好きである。簡単に言えば、メタと現実のバランスがいい時の作品が好きだ。『ムーン・パレス』とか『ミスター・ヴァーティゴ』とか。
さて本作である。オースターと政治とはなかなか結びつかない。リヴァイアサンとは国家を象徴する言葉だし、自由の女神のレプリカを破壊して回る登場人物は確かに政治的である。しかしオースターが政治に足を踏み入れたかというと、そうはいいきれない。ある瞬間をきっかけに、登場人物は自由の女神を破壊する爆弾犯になる。しかし、それが、その瞬間の感覚だけが、登場人物を爆弾犯に変貌させたのである。政治的な動機というものは、見当たらない。
オースターは、偶然や共時的な出来事を重視し、それを「運命」として組み込むという思考の持ち主のように思える。この小説における偶然とは、パーティーで階段から落下するという、事故である。しかし登場人物はその偶発的事故を「運命」ととらえる。そして悟ったように変貌し、爆弾犯として生まれ変わろうとする。彼は偶然と運命を重視しており、政治と論理は受け入れていない。ゆえにこの小説は、政治小説とは言えない。
ただ、次の文章には興味を惹く。
「アメリカの国旗というのは多分にイデオロギーで血塗られていて、この旗の下に偽善的な悪の行いも行われてきたことはアメリカ市民にとっても理解するところであって、多くの人々がこの旗に基づく理念というものに批判してきた。
しかし自由の女神が象徴する理念(自由、平和、法のもとにおける平等)というものを、少なくても表立って批判するというアメリカ人はかつていなかった。たとえアメリカが実際にはこれに全く反する歴史を歩んできたとしてもだ」。
オースターはユダヤ系ではあるがアメリカの知識人である。アメリカには、こういった自国に対するバランス感覚を持っている知識人は多いのである。なのにどうして、アメリカはああなってしまったのだろう。

レビュー投稿日
2011年12月19日
読了日
2011年12月19日
本棚登録日
2011年12月10日
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