昭和元禄落語心中(9) (KCx)

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レビュー : 37
著者 :
hakubotanさん 落語   読み終わった 

与太郎改め三代目助六が八雲師匠も小夏も同席する高座にかけたのは、初代助六が最後にかけた「芝浜」。八雲師匠は慰問で「たちきり」をかけ、みよ吉の亡霊に若旦那の小糸への思いのたけを語る。与太ちゃんの「居残りの会」にふらりと現れた八雲は、ひーさんに「品がない」などと酷評するが、お守り代わりにずっと持っていた初代助六の扇を与太ちゃんに託す。一方、萬月は八雲師匠から「応挙の幽霊」の稽古をつけられ、ひーさんに「つまらない」と言われながらも与太ちゃんにできない落語を継ぐのが萬月の使命だと諭す。

与太ちゃんつまり三代目助六と萬月という次世代に託すべきものを託したと感じたのか、八雲は終業した雨竹亭に現れ、誰もいない客席に向けて『死神』をかける。自らが愛した昭和の落語と心中するかのように。あらわれた助六の亡霊が死神に変身し、八雲を連れ去ろうとする寸前、与太ちゃんが現れて手を伸ばす。「嫌だ 死にたくない たすけて」と、初めて心の奥にある本音を口にする八雲を、助六が救い出す。

みよ吉の霊を八雲師匠以外にも小夏が見ることができたり、初代助六の霊が八雲と口をきいたと思えば死神に変身したり、謎が解けるのは最終巻となる次巻でしょうか。

落語は、八雲師匠が望むような形ではないけれど、人とともに生き、三代目助六と萬月に託される。かつての二代目助六と八雲襲名前の菊比古のコンビのように。

最終巻に向けての謎をいくつか。
・助六、みよ吉の死の真相。松田さん証言ではみよ吉が助六を刺したそうだが、動機は何か。菊比古の誘いに乗って東京で落語界に復帰しようとした助六と父について行こうとする小夏を殺して、かつての菊比古と自分だけの世界を取り戻したかったのか、自分から菊比古を奪った落語に復讐するために菊比古の無二の同志である助六を滅ぼしてしまいたかったのか。
・親分と八雲が共有する秘密。どうやら与太郎が組を抜ける前から親分さんとは面識があるようだ。最新刊の様子では、信之輔くんの父親が親分さんじゃないかという疑いに加えて、親分さんと八雲はもっと深い秘密を共有しているかも知れない。
・八雲と小夏にだけ見える、助六とみよ吉の意味。9巻最終場面としては八雲の自滅願望(落語の心中相手となるはずだった助六を喪って以来の厭世観)が助六の姿に化けた死神を見せたという気がするが、八雲の生きることへの執着(たぶんまだ何かやり残したことがあったり、思いを伝えきれていない未練がある)と次世代の落語を象徴する三代目助六(与太郎)が救出した。ならば、助六とみよ吉の亡霊(?)は八雲と小夏に何をつたえたかったのか。
・八雲はいつどのようにして終焉を迎えるのか。思うような時に思うような死に方ができないのが人の世の常だけど、タイトルにある「昭和元禄落語心中」を象徴する死に方としては、現代に落語の居場所を造ろうと約束した助六亡き後、自分が旧い時代の落語の伝統を全部ひとり抱えて亡くなることで落語と心中することが第一巻時点での八雲の意思だったと思う。しかし、自分と助六の落語を受け継いで再構築することに成功した三代目助六(与太郎)、女落語家にはならなかったが下座さん・お囃子さんとして寄席を支える不可欠な鳴り物スタッフになった小夏、どうやら助六の落語遺伝子をもって生まれて三代目助六の父性愛を受けてすくすく育っていく信之輔、上方落語の生き残りとして再興に苦闘しながらキャラ的にはかつての生真面目で面白くない菊比古を思い出させるので使命感を持ったら九代目八雲を名乗れるぐらいに化けそうな萬月師匠、助六と萬月さんを知的に支えるひーさんと、当初は考えてもいなかった落語の継承が進みつつあるようだ。なので、最終巻の予想では、三代目助六が八雲の型でも助六の型でもなく両方の特徴を持ちながら与太郎の型になっている「死神」をかける高座(前巻で寄席が燃えちゃったんで、どこになるかな)を袖で聴きながら、眠るように亡くなっている(小太郎ちゃんとか前座さんが揺り動かしてみたらもう彼岸に行っていた)というラストを希望。
・そして、焼き場で空に上がっていく煙を見上げながら、信之輔くんが「野ざらし」をかけるのを、三代目助六、小夏、松田さん、萬月さんなど落語関係者が見送る。

もうひとつ考えたラスト。寄席に火をつけた罪で鈴ヶ森刑務所に収監された八雲師匠が、親分さんはじめ収監された人たちの前で、毎日「死神」をかける。そして、ある日、助六みよ吉から迎えが来て、高座終了と共に力尽きて死ぬ。

……って想像し過ぎ?

レビュー投稿日
2016年2月5日
読了日
2016年2月5日
本棚登録日
2016年1月9日
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