若い読者のための第三のチンパンジー (草思社文庫)

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レビュー : 16
hamadatekiさん 社会   読み終わった 

罪もない市民を理不尽に傷つけるような凶悪犯罪者が、人権を盾にして刑を免れようとしている姿を見てやりどころのない怒りと虚しさを覚えてしまうのは、きっと僕だけではないと思います。
そういう時に僕の頭をよぎるのは、いっそのこと、そんなことする鬼畜な犯罪者は人間じゃなくてチンパンジーなんだよ、ってことにしてしまえば、チンパンジーには人権なんか無いんだから極刑にでも市中引き回しでも、あるいは生体実験のサンプルとして利用するでも、なんでもできるんじゃないのか、という、ちょっと危ない思想だったりします。
でも現実にはそんなことはもちろんできない。じゃあ一体、人間とチンパンジーの差って一体なんなんだろう、という疑問を持ったのが、僕がこの本を読むことにしたきっかけです。名著「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレドさんならこの僕の疑問を簡単に解決してくれるだろうと。

ところが、いくらジャレドさんと言えども、この疑問はそう簡単に解決できるものではないようで、本の中でも、この疑問に答えるために実に様々な視点で人間とチンパンジーとの違い、長い進化の過程でチンパンジーはいつチンパンジーから人間になったのかなどの研究と考察が語られていました。
まず、遺伝子的に見ると、コモンチンパンジーやピグミーチンパンジーと人間の遺伝子は、98.4%が同じなのだそうです。このたった1.6%の違いが、人間に、チンパンジーを捕獲して檻に入れたり生体実験のために殺すことを許しているのか、と問われると、簡単にそうですとは言えない。
じゃあ遺伝子構造以外で人間とチンパンジーの違いは何なのか。言葉を話す、繁殖期以外でも性行動をする、介護など他人の世話をする一方で他人を殺す、絵画や創作などの芸術を楽しむ、たばこや酒を飲んだりドラッグをやる(自傷行為をする)、ジェノサイド(大量殺戮)をやる、など。これらは、人間特有の行為なのか、そもそもなぜ人間はこういった行為をするのか、チンパンジーや他の動物はこういった行動を取らないのはなぜか、など、ジャレドさんお得意の「なぜ、を突き詰める」がこの本の中でも実践されています。

この、人間とチンパンジー(あるいは人間以外の動物)の違いってなんだろう、その違いはなぜ生じたんだろう、という疑問が突き詰められていった結果、この本の最後の方では自分が人間であることが嫌になってきます。この地球に生きる生物の中で、自然を損ない、他種を絶滅危惧に追いやり生態系を破壊している唯一の生物が僕たち人間だけであるという絶望的な結論がこの本のクライマックスだからです(この本の後半1/3はほとんど人間が地球にもたらした害悪について述べられています)。

凶悪犯罪者はもうチンパンジーってことにしていいんじゃね?、という良からぬ思想がきっかでこの本を読み始めた結果、凶悪犯罪者どころか自分も含めて人間みんなクソじゃん、という結論に至ってしまいました。そんな読了後のなんとも言えない後味の悪さを味わいたい方に、この本をおすすめしたいと思います。(←そんな人おらんやろ)。

レビュー投稿日
2018年11月19日
読了日
2018年11月19日
本棚登録日
2018年11月19日
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