目の見えない少年が語り手&探偵役というだけで、どう物語られていくのか気になるが、読んで見ると初っ端からホームズばりの観察力を駆使した推察が繰り広げられ、面白さで読み進めることができる。
海外ミステリではあるものの、ミステリとしては非常に国内ミステリと読み心地が似ている。
それも新本格に近いケレン味。
そして新本格に感じたある種の屈折よりも、まっすぐというか純粋というか、樹形図の別のノードが進んだ先を見ているかのようだった。
ありがたいことに中国語の人名が同一ページ内でもすべてにルビが振られているのがとても助かる。




以下、真相に言及した感想としては……





・日本と中国では仕掛けの効果が異なるのでは?
主人公の少年は、現在はドイツに暮らしているが、生まれた国である中国に対して誇りを持っており、それが支えにすらなっている。
どうしてそこまでこだわるのか。自分が読んでこの部分に疑問を抱いていた。
この部分に関する「何故」が明確に描かれずに物語が進行するからだ。
中国の作家だから? アイデンティティの拠り所として、中国人であることの重要性があるのか? 書くまでもない自明のこと?
このように、海外の作家ということに理由の在り処を考えたりもした。
けれども、この「何故」をミステリという観点から考えたとき、語り手の正体にピンとくることが出来た。(人種が違うというところまでで、黒人というところまでは特定できなかったけど)
で、本題としては、この自分が気づくに至った回路は中国を母国とする人間にとってはどうなるのか?ということ。

(自分)
中国生まれであることへの主人公のこだわりの理由への疑問

ミステリ的仕掛けへの疑い

ここで自分が抱いた疑問点に関して、中国を母国とする人たちは同じように疑問を抱くのだろうか?
日本人である自分からすれば、そのこだわり自体の動機が謎として目の前に立ち現れてくる。
けれども、母国の人たちにとっては、それは当然のものなのかも知れない。またはやはり同じように疑問に感じるのかも知れない。
(ちょっと容疑者X論争の笠井潔の指摘を思い出した。見えないという死角の可能性が、ある層に発生し得る点において)
そして、疑問に思わず気づけなかったとしたら、この仕掛けのもたらす効果は、きっと外国人である自分とは異なった衝撃となるのではないか?
本作、わりときわどいのでは?

・叙述トリックはひとつ?
「この小説には一つ叙述トリックが含まれている」
阿香(アーシャン)=楽楽(ローロー)
作中内で言及される叙述トリックは上記だけれど、語り手が黒人であるというのも叙述トリックであり、ここの解釈の仕方が分かっていない。

・単に面白い作品だからという理由だけではなく、これ翻訳して日本人に読ませたらどうなるんやろ?というような翻訳者の企みを感じる(良いと思う)。

2020年1月5日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年1月5日]

感情ではハッピーエンドと感じられないけど頭で考えるとこれこそがハッピーエンドだと思うし、100年後にはもしかしたらすんなり感情でも受け入れられるのかも知れなくて、このエンディングは最強。
ハッピーエンドだと望みたい。
この物語をハッピーエンドにできるアラトくんが凄い。

2019年2月26日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2019年2月26日]

題材の選択が出来すぎな程にちょうど良すぎる。
卑近でありながらも、こうも物語を作り上げられるのか。
いつも思うけれど、書けそうで書けない物語を書く作家さん。

作中で通して感じるのはフットワークの軽さとスピード感。
電車の待ち時間でawsでサーバ用意してABテストするみたいなのとか、演出としても良い。
在り方が啓蒙的にも感じる。
腰の重さは駄目だよね、と。
あとは社会に対して何かできることはあるのかという、焦燥感のようなものへの応答。
自己啓発本とか読んだことないけれど、こんな気分になるのかも知れないなぁ。

2018年11月5日

読書状況 読み終わった [2018年11月5日]

いま考えていることにクリーンヒットする内容で、これが必要だった。

2018年7月30日

読書状況 読み終わった [2018年7月30日]

・路環島の冒険(林巧)
少年と海賊と地図の物語。
宝島とかよりはむしろピーターパンという印象。
結末に対してしっかり伏線があるところが良かった。

・応仁黄泉圖(朝松健)
作者の室町伝奇もの。
応仁の乱の時代、京都を迷路のように走る『構』という巨大な堀があったというのを初めて知った。
戦火のなか逃亡する様はまさしく地獄めぐりのようで異様な迫力。

・イスタンブール(ノット・コンスタンティノープル)(高野史緒)
映画のようにイスタンブールを巡っていく描写と会話が小気味良い。

・その路地へ曲がって(梶野真治)
作者の特色と北野勇作の作品や三丁目の夕日のような、ノスタルジックな世界観に浸れる。

・猫ヲ探ス(森真沙子)
内田百閒の猫にまつわる物語。

・幻燈街再訪(植草昌実)
カリガリ博士、東洋キネマ。
愛と情熱を昇華した作品。
下地がある読者の方が楽しめそう。

・皮膚(松本楽志)
皮膚に刻まれた傷が地図になる。
小説だからこその想像力で展開されるボーイミーツガール。

・モモの愛が綿いっぱい(大槻ケンヂ)
語り手が絶望し自殺しようというところから始まるのに、全く暗さを感じさせないセリフと描写で物語は進行する。
モモとの会話はもちろん、周囲との関わりもおかしくて何よりも愛おしい。

・いつか、僕は(牧野修)
子どもの頃から『僕』の前に現れてきた二人組の怪物。
妄想や狂気。いつか何かが起きるのかも知れないという不安。

・大帝国の大いなる地図(ダーヴィデ・マーナ〈訳:マッシモ・スマレ)
帝国のジオラマのような巨大な地図が、現実よりも優先されるという風刺のような幻想小説。

・独白するユニバーサル横メルカトル(平山夢明)
単行本で読んだのが随分と前だったので新鮮に読めた。
でもこのタイトルだけは忘れられない。
紳士口調の地図の一人称という(おそらく)空前絶後な作品。
動物や物を擬人化することによって、人からの感情移入を自然なものとする効果を期待できるが、
本作は忠義心と親切心溢れていて好印象の語り手のキャラクタも相まい、最後で一気に突き放される。
発想とプロットの上手さ、両方が優れた作品。

・迷界図(石神茉莉)
呪いの品を扱うお店とそのお客。

・コガラシとニゲヒメ(斎藤肇)
オンラインRPGでモンスターアバターの二人組が自動生成されるエリアのマッピングを行うという、今だったら(もうそこまで今ってわけでもないかも)、ネット小説やラノベでお馴染みの、MMORPG空間。
RPGと地図は最初期から切り離しようがないつながりを持っていて、自分としても非常に興味深い題材。
この題材から絶対新しい何かが生まれると思うんだけど、どこかにあるのか?

・ナウマンの地図 Mappa Mundi(物集高音)
ナウマンの地図に印された世界の臍への冒険譚。

・探検家の書斎(井上雅彦)
イメージとしては高橋葉介作品に非常に近い。
この探検家の在り方は小説家のひとつの理想なのだと思う。

・旅立ちて 風(田中文雄)
老人ホームにいる叔母と「わたし」の物語。

・残された地図(菊地秀行)
残される理由が何とも希望がない。

・ひろがる(坂本一馬)
地図看板を題材にした丁寧なホラー短編。

・わたしのまちのかわいいねこすぽっと(多岐亡羊)
先に『幻想探偵』に収録された同作者の作品を読んだときに惹きつけられるような独特な魅力を感じたが、本作も同様。
リリカルさと残酷さの反転。

2018年4月30日

読書状況 読み終わった [2018年4月30日]

・『教室』にやぶれる(木原浩勝)
初っ端は小説ではなく、学校怪談をまとめようとしたときの失敗談。
怪談のパターン化、体験の集団化によって個人の恐怖への変換が難しい、というお話。

・開かずのドア(竹本健治)
青春ホラー。月光ゲームとかで描かれる青春の雰囲気。
好きな人は好き。
自分は好き。

・すぎたに(平谷美樹)
教師視点の学校怪談。階段の場面のところとかよくある演出が多い気がする。

・目(黒岩研)
カミキリムシが印象的。生理的にくるホラー。

・ハイスクール・ホラー(手塚眞)
若い頃に抱いていた感情や思いが、異常な事件の真相につながる。

・転校(石持浅海)
理事長が石持さんっぽさを感じるキャラ。
このテーマとミステリ作家の親和性は高い気がする。

・ストーリー・テラー(奥田哲也)
収録作の中ではトップクラス。
表題作通り、物語ることが中心となって進行していき、いつの間にやら異界の縁にいる。
三枚の写真を使った三題噺みたいなのが面白い。

・最後の夜(太田忠司)
同窓会に集まった大人たちの描写がいかにも俗世間にまみれたという書きっぷり。
あっさりし過ぎていて、最後に大人たちとの対比を意図しているようには思うけど、あんまり印象に残らない。

・霊媒花(江坂遊)
語り手である先生視点の語りが上手い。

・Tableau vivant活人画(森青花)
ミッション系の女子高で、キリストの来歴を生徒たちが活人画として演じる。
短くも美しい話。解説にある「邪悪な存在」がよく分からなかった。

・侘びの時空(朝松健)
室町伝奇。非常に達者な文章で満足度が高い。

・教室は何を教えてくれる?(犬木加奈子)
マンガと写真が混ざった実験的な創作。
不安感が残る。

・花切り(飛鳥部勝則)
美少年に「花切り」というタイトルの二つで、この作品の雰囲気が通じてしまいそうな気がする。

・必修科目(岡本賢一)
世にも奇妙な物語にすごくなっていそう。

・あの日(小林泰三)
何度か読んでるけど、こんなアイディアがどこから来ているのか本当に謎。
そしてアイディアだけでなく、物語を進める会話がまあ真似ができない。
小林泰三の会話文は論理的に話した結果、全くお互いの話が通じなかったりして居心地の悪い気分にさせるのが凄いのだけれど、
本作の着地点もそんな会話文の特異さがなければ成立しない。

・実験と被験と(平山夢明)
やばい人間の描写に関しては一級品。
日本的なホラーではなく、海外のホラー映画の『ホステル』とかあのあたりに感じるクールでゴアな作品。

・ネズミの穴(安土萌)
穴の先にはネズミーなマウスが出るかと思った。

・海藍蛇(石神茉莉)
『4ジゲン』というマンガを思い出したりしたけど、単に舞台だけからの連想。
国籍も異なる大人たちだけの教室にある交流風景が印象に残る。

・帽子の男(浅暮三文)
一発ネタのような発想から流れるように物語ができてしまっている。
ラファティとかのホラ話の系譜。
一度は読んでみればいいような。

・スクイーズ(井上雅彦)
自分が好きな日本の映画の映像が頭に浮かんでいた。
ツボにはまる場面と演出。

・エスケープ フロム ア クラスルーム(山田正紀)
自伝的な雰囲気の小説?

・逃亡(菊地秀行)
解説どおり、「まさにそこにあるディストピア」

・再会(梶尾真治)
ダムに沈む小学校。二十一年ぶりに集まった同級生。名前を思い出せない「あの子」。
締め用に依頼したんじゃないかというぐらい、情緒豊かで締めにふさわしい作品。

2018年4月25日

読書状況 読み終わった [2018年4月25日]

二話目と三話目の真相が、誇張でも何でもなく真っ先に思いつきやすい答えなのに登場人物たちによる様々な可能性の検討で上がってこず、わざわざ少し捻った推理をして遠回りしているようにすら思えた(特に二話目)。
意外性が全てではないとは言え、物語を転がす中心となる謎の答えである以上、さすがにもうちょい意外性が欲しくなる。
文章自体は好きな感じなのでもったいなく感じる。

2017年11月16日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2017年11月16日]

「嵐の惑星」
これほどの作品が本邦初訳ということに驚いた。
訳されていない=面白くない、とは限らないらしい。

2017年11月8日

読書状況 読み終わった [2017年11月8日]

・海辺で出会って(中井紀夫)
初っ端から夏を強く感じさせる一篇。
こういう形の運命の女もあるのだな。
凝縮された一生をホテルというひとつの舞台で描く。

・回転ドア(柄刀一)
南美希風が登場。
島荘の衣鉢を継ぐ柄刀作品は、幻想的で不可能な謎に対し、合理的な解決を与える手腕が優れていると思っているが、本作は異形コレクションであるからか、ひとつの謎が解けた後に計り知れないものが残る終わり。
ミステリ部分としては、建築物としてのホテルの一要素をどう使うのかという着眼点がさすが。

・ミューズ(高野史緒)
ホテルの伝説に焦点を当てた音楽小説。

・天蓋寝台(北原尚彦)
離婚した妻との思い出と、サバトの女との物語が関連しているように思えるがまとまらない。

・ヴェンデッタ(森青花)
二人の格闘家と一人の妻。
凄惨であるのに美しい物語。
男の肉体・思考が、ギリシア神話の彫刻のような端正さ。

・お薬師様(浅暮三文)
章の番号通りに読むのと、章の最後で指定された番号順で読むのとで違う物語になるという実験小説。
『実験小説 ぬ』で読んだことあった。

・アイネ・クライネ・ナハトムジーク(石神茉莉)
石の物語。
これぞ幻想文学という文体で、中心となる女性の神秘性といい完成した雰囲気。

・お迎え(飯野文彦)
二人の落語家が落語を通して対決する場面が巧みだし引き込まれる面白さ。

・辿り着けないかもしれない(飛鳥部勝則)
もしもイコノロジーの知識とかあったらもっと楽しめたかも?

・異の葉狩り(朝松健)
『グランドホテル』の斎藤肇「シンデレラのチーズ」を彷彿とさせる和風ホラー。
こちらの方が技巧的かつ手間も比べものにならないぐらいかかっていそう。
「異の葉狩り」で句を読み合っているときの緊張感や恐怖の描き方が秀逸。

・人魚伝説(町井登志夫)
医療ホラー。
作品紹介のブラックジャックというのが、確かにそれっぽい。
終わりは良い。

・柔らかな奇跡(矢崎存美)
《ぶたぶた》シリーズというのを未読だけど、自分勝手な女性に対しても優しい目線のラストで、どんな雰囲気のシリーズなのか何となく伝わる。

・チャプスイ(南條竹則)
チャプスイも知らなかったが、その元になったごった煮の逸話から料理を再現するという展開が面白い。
娘への手紙のような風体で始まったのに対して、最後の展開が乖離しているようで、出だしの意味はあったのかと疑問に感じた。

・無限ホテル(薄井ゆうじ)
幻想小説。大きな出来事が起きるわけでもないが良い読みごこち。

・過去の女(森奈津子)
良い話のように終わらしているけれど主人公の男の人物造形からして非常に疑わしい(作者効果)

・死神がえし(岡本賢一)
このアンソロでも数少ないホラーらしいホラー。
妻の身体から本を切り出す場面が恐ろしくも映像的に美しい。
「私は慎重に、薄切り肉のようなページをめくった。」
身体から連想されることで本来なら結びつかない修飾表現が生まれる。

・流星雨(速瀬れい)
他の作品とまさかのサブテーマ被り。

・魔夢(夢野まりあ)
「自分の死体写真」と文章。

・影踏み遊び(倉阪鬼一郎)
俳句が一句、生まれるまでの物語。
屈指の切なさ。
一句生まれるまでの物語を描くことで格別な文脈が付随する。

・局所流星群(野尻抱介)
アンソロの設定のおかしな所をSFで解読する一編。

・開かずの間(菊地秀行)
宇宙と老人の死。抽象的。

・めいどの仕事(牧野修)
ベッドメイキングで怪物を撃退する客室係のスタイリッシュアクションストーリー。

・金ラベル(加門七海)
夢と星の美しさ...

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2017年7月19日

読書状況 読み終わった [2017年7月19日]

とあるグランドホテルを舞台にしたモザイクノベル形式のアンソロジー。

・ぶつかった女(新津きよみ)
ホテルである必然性はなし。他の何かでも代用可能。
オチが分かりづらいので何度か読み返す。

・探偵と怪人のいるホテル(芦辺拓)
悪役がミステリやSFを嫌っているという造形が芦辺さんらしく思い、やはり苦手。
しかし世俗的な悪役たちと被害者になるしかない男の物語が、探偵と怪人の物語へ変貌するところにグッときてしまう。
屍者の帝国を思いだす。

・三階特別室(篠田真由美)
一番ホテルが主役になっている。
建築物の描写や知識は洗練。
建築的におかしなところを指定することで怪談を否定しながらも、でも結果として現実に戻らず別の怪談が生み出される。

・鳥の囁く夜(奥田哲也)
日常/非日常、和洋折衷、生と死。
境界の場としてのホテル。
人の死によってタイタニック号みたいな死の世界に沈んでいく。
ホテルという場所で民俗学、文化人類学的な世界観、儀礼が生み出されている。

・To・o・ru(五代ゆう)
暗黒神話じみた終わり。

・逃げようとして(山田正紀)
いずれの短編もホテルのどこかにある異界への入り口を描いているのだと思えてきた。
奇妙な入り口の物語。
ファンタジーでは異界への入り口は冒険の始まりや救いになるもの。
ホラーにおいても、もしかしたら同じものを描いているのかも知れない。

・深夜の食欲(恩田陸)
一場面のイメージを描いたような短編。永遠にワゴンを押す男。

・チェンジング・パートナー(森真沙子)
クロゼットの扉。
人間くさい男と女の話。

・Strangers(村山潤一)
画。海外のゴーストっぽい。

・厭な扉(京極夏彦)
読んだことがあった。
厭と幸せを描くアイディアと文章力。

・新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け(田中啓文)
ニグ・ジュギペ・グァの描写も習性も調理も、微に入り細を穿つ描写で圧倒。生理的な嫌悪感が増し増し。
気持ち悪いけど収録作のなかでも屈指の一篇。
これも異界への入り口がホテルに存在していたからこそ。

・ヴァレンタイン・ミュージック(難波弘之)
ミュージシャンとのことで、スタッフやライブの事前準備の描写は面白い。
素人っぽさのあるノリの軽い文体は、ラノベに近いものを感じたり(展開も含め)
篠田真由美とは文体のベクトルがもう重なっているところのないぐらい異なるが、モザイクノベルとして、「三階特別室」と同じ要素を扱っているのがなんとも不思議。
『街』の音楽の人。

・冬の織姫(田中文雄)
ホラーというよりは雰囲気の良いミステリ。
順番にここまで収録作を読んでいるなか、ここで刑事が出てくると違和感を覚える。

・雪夫人(倉阪鬼一郎)
短い。タイトルからしんみりした話が始まるかと思いきや……

・一目惚れ(飯野文彦)
スプラッタ。傍観者である語り手への違和感は解消される。

・シンデレラのチーズ(斎藤肇)
他にもこれをやっている短編があったらさすがに止められていそう。
グランドホテルの意味を意図的になくしている。
最後、語り手の冷めた感性が印象的。

・うらホテル(本間祐)
ホテルに飾られている絵に焦点を当てた一篇。
演劇のような夢のような語り口。

・運命の花(榊原史保美)
写真散文詩。
評価できない。言葉通りの意味で。

・螺旋階段(北野勇作)
北野勇作らしさ(と言っても具体的にどうとは答えるのが難しいあれ)は抑えめ。
でもどこまでも続く螺旋階段に雪が舞うシーンは、一瞬だったけどイメージがとてもきれい。

・貴賓室の婦人(レディー)(竹河聖)
...

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2017年7月15日

読書状況 読み終わった [2017年7月15日]

最初に正直なところ。
古典部シリーズと小市民シリーズを彷彿とさせる登場人物が出て、それからジャーナリズムときたら米澤穂信を連想しないのは無理がある。

でも一話目を読んだら丁寧な伏線と推理に好感が持てた。
最初に想定されていた動機が実は……という部分や、真相の推理の前に主人公が犯人に決定的な言葉を突きつける演出など、ミステリとして一番それっぽかったのが一話目。

好きなのは一話目と、あと個人的には短いけれど三話目が作品全体を通して重視してると思われる心理的洞察(理由、動機)という面で面白かった。

ラノベミステリとして次作も読んでみたい。

2017年6月20日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2017年6月20日]

国名シリーズを途中まで読んだ以来の久々作家アリス。

・ミステリの事件と推理部分は小さめ
・ホラーとミステリの共通点の話
・火村の推理場面が印象的
探偵(役)が犯人と一対一で対決する構図は、狩人=犯人が狩人=探偵に狩られるという、タイトルを表現するのにこれ以上ない演出
・上記構図に火村と共にアリスがバトンタッチして語りかける意味は
・とっちらかった事件の諸要素は当初「悪夢」のようだけど、明かされてみれば行き当たりばったり
ホラー→枯れ尾花
・対決場面の推理の組み立て方は犯人を追い詰める狩り
倒叙形式で狩りに追い詰められる側の物語を読んでみたかった

2017年5月2日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2017年5月2日]

・ミステリの上にホラーが乗っかっている

デビュー作を未読なのでこの作家さんの作風を知らない状態で読んだ。
ミステリ作家が書いたホラーミステリ。
印象を一言で言えばこれか。

作中では真実、怪奇現象と呼ばれるものが登場するのだが、作品自体はミステリの形式性が全体を作りあげている(それもかなり濃い)。

ミステリで推理の糸口としてなりやすいもののひとつに、犯人が用いる凶器の問題がある。
そもそも何が凶器なのか。なぜその凶器なのか。いかに凶器が使われたのか。
凶器をめぐる着眼点はいくつもある。
今作では凶器=「怪奇現象」とすればあまりにも形式的なミステリとしての本作の姿がはっきりするように思える。
「現象」にその原理、つまり「なぜ」の答えは得られない。原理事態はブラックボックスだ。しかし、人は拳銃の仕組みも毒の組成を知らずとも、人間を殺すことはできる。
今作の犯人たる彼女も、「なぜ」を理解せずとも利用方法は理解できたため、「現象」を凶器に、人を殺すことができる。

そうして、終盤、ちょっとした叙述トリック(「ネタバレの内容を含む」だからいいよね)の先に、探偵役ともいうべき存在が「犯人」と対峙する。
犯人の独白や探偵の告発が終盤のクライマックスにあるわけだ。そしてミステリのクライマックスとホラーとしてのクライマックスは重なり、犯人の死=現象のとりあえずの終焉となる。
(本当に狙い過ぎ)
叙述トリックの出すタイミングや、現象の副次的な産物を提示する手際もなんというか、非常に慣れ親しんだ感覚を覚えてしまう。

『リング』が、本作のテーマにも関わり、本作の登場人物を動かす思考の元としても中心的な役割を果たしている。
個人的に、『リング』はミステリとしての面白さも詰まっている作品であると思っているので、『リング』を扱う本作の構造がこうしてミステリの形式を強く踏襲している(ように思える)のも、スムーズな話なのかも知れない。

しかし構造がぴったりとはまり過ぎていて、じれったさや逆に引っかかりを感じてしまった。
このじれったさを共有してくれる人はいるのかな。

2016年8月27日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2016年8月27日]

連想したのはベン・H・ウィンタースの『地上最後の刑事』。
地球に隕石が衝突するという終末間際の世界で殺人事件を捜査する刑事の姿が、今作『ゲルマニア』において連合軍の気配をひしひしと感じるベルリンで、自分の命もギリギリのところにある元刑事の姿と重なった。
今作もひとつの世界が終わろうとしている。

なぜ捜査するのか。
連合軍の空襲で一日で数百人の人間が命を落とし、ナチス親衛隊の機嫌を損ねただけでも死を宣告され得るユダヤ人の刑事オッペンハイマー。しかし刑事として動いているときの彼は誰よりもどこかに向かって進んでいるようだ。
人間として生きていると言ってもいい。

最後の一節はまさに上記とつながる。
そしてそれが共に行動したSS大尉からもたらされるところに意味を覚える。

2016年7月12日

読書状況 読み終わった [2016年7月12日]

面白い。
そしてラノベというものについてつい色々と考えさせられてしまった。

同作者の『はがない』を読んでいる時は、後半から一気に作者が何かをこじらせていった様子が読んでいて興味深かった(ぎりぎり橋から落ちてなさそうで、でももう落ちちゃってるような具合だった)が、本作ではそのあたりを消化したうえで書いているようだった。

『はがない』のこじらせポイントとしては、ラノベのハーレムもので、ヒロインからの好意と主人公との関係性についてどう描くべきなのかや、一気にネタにされる頻度を高めた難聴系主人公などなど。
このあたりに対して、メタ思考と自己言及の渦に入り込んでいったのが『はがない』だったと思うが、今作では意図的にネタとして使っているところがけっこう出てくる。

以下、作中で気になった言葉に関して感想。

「お、俺だって、『はがない』の小鳩神とか、『俺ガイル』の小町神のような妹がいれば、妹のために本気で料理を習得している!」(p32)
>ラノベ作家の日常(?)を描いているだけあってか、実際のラノベ作品のタイトルがたびたび登場。速攻で『はがない』にも言及。

「今回は男友達もいる」(p37)
>「今回は」のメタ感。

「……え、なんだって? よく聞こえなかった」
「思いっきり反応しておいて聞こえなかったフリはさすがに苦しいんじゃないでしょうか」(p105)
>『はがない』の例の難聴をネタに、このあと軽快な応酬。次のと合わせて。

「んー。可愛い女の子に迫られてるのに曖昧に誤魔化して返事をしないまま体よくキープしているクズ野郎だと思ってて悪かったなーって」(p111)
>すでに返事はしているという設定。『はがない』でこじらせたあれこれから、(良し悪し置いて)先に進んでいる感じ。

「…………で、そんなよくある感じのサークルクラッシュ話を聞かされて俺はどうすればいいんだ。お前のことをこれから『小鷹さん』とでも呼べばいいのか」
「それは恐れ多いからやめてくれ。なんやかんやでちゃんと隣人部を守れた小鷹さんと違って、オレはサークル崩壊を止められなかったしな……」
(p204)
>『はがない』への言及は上にあげたのも合わせてやはり主人公のスタンスと周囲との関係性が中心。

『流し斬りが完全にはいったのに!』(p231)
>ソウルスティール


この作品自体がラノベ作家の日常を描くという作者自身をどこかに反映する作品であることに加え、『はがない』という自作への自己言及的な側面も強く、メタ×メタな作風。
そして、『はがない』で生じたものをいくらか消化しながら書かれているように思えるが、こうしてラノベとそのお決まりについてのメタ思考を繰り返してたら、またいつかどこかでこじらせそう(楽しみ)。

このこじらせっぷりを称して「ラノベ作家版 法月綸太郎」という称号を与えたい。

ところで『はがない』終わったの? って思ったら11巻出るのね。
ここまでこちらで言及してからの続きというのは果たしてどうするのか。期待してしまう。

2015年7月21日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2015年7月21日]

この作者の小説は初めて読んだけど、円居挽や似鳥鶏あたりを連想させる、現代的な文体とキャラづけ。

初っ端から主人公格の少女(探偵)と謎の美少女(裸体)がホテルの一室で目を覚ますところから始まる(重要)。
過去に南北戦争があった架空の日本。地下には無数の建造物が眠り、侵入不可能な地域も存在する。
主人公格の少女は、そんな地域からやって来ている。記憶を失っているが、凄腕の暗殺者だったかも知れない上に、周囲の登場人物たちもやたら戦闘能力が高かったり、警察の有力者の息子だったりと、総じてキャラ立ちが激しい。

ミステリとしてどう評価するかは悩むところ。
大ネタ部分は解ったうえで、色々とロジックがあるところは楽しかった。

次回作が出るとして、キャラをどう描くのかが興味の的。

2014年9月18日

読書状況 読み終わった [2014年9月18日]

主人公のツッコミが叫ぶばかりでちょっと苦手。
美少女ばかりを集めた学園で、主人公に付き合いたくないワースト1位と告げられたヒロイン。その他の女子全員から主人公が振られれば自分しか候補がいなくなると考え、次々と主人公に告白させていく逆転の発想。
暴力的で滅茶苦茶なヒロインだけど個人的にはむしろ良い。
本気の愛情に裏打ちされた重たさとわがままが好き。
ルート入り過ぎててあんまり続けられなさそう。

2014年8月12日

読書状況 読み終わった [2014年8月12日]

展開が早く、スルスルと読み進められる。
面白いと思って読んでたらすぐに読了。
ノワールとして暴力描写や残酷な部分が多いのに独特の軽さを持っている。
巻頭のイラストをちゃんと見てなかったから探偵の外見が完全に小太りのおっさんでイメージしてた。読み終わってイラスト確認したら細いわ若いわでびっくり。

2014年8月7日

読書状況 読み終わった [2014年8月7日]

想像以上にミステリしていて意外。
謎の焦点は、凶器の銃はどんな形状をしているかというもの。
特殊な形状をしているらしく、物語のクライマックスでようやく登場する場面はまさしくミステリの真相が判明したときの面白さ。

あと、鮫島警部のことを勝手なイメージで武骨な叩き上げの警察官だと想像していたが、実際はかなりのエリート。
初っ端からアッーーー!な場所から始まるのも面白い。
いろいろと設定を工夫している。

2014年3月18日

読書状況 読み終わった [2014年3月18日]

全体として王道やテンプレに流されて陳腐になりかけている場面がちらほらある。
結末のための物語展開ですべて予定調和のよう。
トーンの違うパートが入り乱れていて没入できない。
シリーズの中では作品としてのクオリティは下かもしれない。

以上のように頭では「揚羽をめぐるシリーズ」最終巻に対する期待を超えられなかったと思っている。
それなのに読み終わってから心動かされている。
つまりは感動している。
心に残る何かがある以上、自分にはホームラン。

シリーズ全体の評価は最高。
また最初から読み返したい。

2014年3月12日

読書状況 読み終わった [2014年3月12日]

文庫版にて再読。
やはり挑戦状が島田荘司『斜め屋敷の殺人』なみの無茶振りだと思いはするものの、『群衆リドル』よりこちらの方が好き。
イエ先輩はシャワーを人類最大の発明だとか考えるとこが、まほろと気が合う理由なのかも知れない。

2014年3月4日

読書状況 読み終わった [2014年3月4日]

ミステリの仕掛けはあからさまで予想がつく人は多いはず。
しかしメインのミスリーディングが存在する理由もすべて介護の問題に直結しているのが凄まじい。

三十代なのに白髪で老けている→父親への壮絶な介護体験による心労
鍵を盗んだ人格者→月にたった一日の休み、過酷な労働、精神・経済状態から「間が刺した」

徹底した作品だと感じた。
震災で引き起こされた原発の問題と介護問題も予想されていた事柄として、今だけでなく未来も見据えている。

2014年2月10日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2014年2月10日]

普通に冒険してる。
少年と少女、飛行機のロマン、メダルに秘められた王家の謎、古城の探索、不思議な兵器と追ってくる男たち。
本家ルパンとかラピュタっぽいイメージが湧く。

2014年1月22日

読書状況 読み終わった [2014年1月22日]

「いやしい鳥」
「溶けない」
「胡蝶蘭」

文芸誌で短編一本読んだときから何となく気になっていた作家さん。
やはり好みな作風だった。
いずれの話も非日常・非現実な事柄が登場するのだけれど、それがもしかしたら語り手だけの体験なのではないかと不安を抱かせる。
この非日常との距離感がとても自分にしっくりくるもので、もっと他の作品も読みたいと思った。

「いやしい鳥」
即座に結びつく証拠は、この表題作でも消されている。最初に詮索好きで勝手に妄想を膨らます主婦の視点から、この物語の主要な語り手を外から描写。そして男の語りも最初は支離滅裂。とても疑わしい。
鳥になった男の不気味さは秀逸。同じ人間とは思えないところから、本当に人外へとなってしまう。

「溶けない」
三編の中では一番好き。
幼いころ「恐竜」に飲み込まれた母親は、姿形も記憶もまったく同じ別の母親になって戻ってきた。
同じくカメレオンを見たという同じ大学の女性や、「恐竜」じゃなくコモドオオトカゲだと言う大家。
飲まれるって何なのか?
母親との関係性や主人公自身の変化などが、人を飲み込もうとする何かとつながりを感じられて、このつながってるぽい距離感もいい感じ。
明白じゃないけど、意味を感じる。

「胡蝶蘭」
スッキリとまとまった一編。
最後がおしゃれ。

2013年12月19日

読書状況 読み終わった [2013年12月19日]
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