思いがけず刊行が再開された「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」シリーズ。「if」を冠しているとは言えナンバリングが冠された正当な続編が電撃文庫から刊行されたのに加え、そのコミカライズが雑誌連載され、さらにコミックスも発売される、というサプライズからしばらく経ちました。
電撃文庫は「あやせif」、「黒猫if」と来て次が「加奈子if」と意表をついて見せ、加奈子が出るならヒロイン全員分読めるに違いないと期待したら「加奈子if」の後書きで「if」シリーズは加奈子までで終了と知り、やるせない気分になったものの、コミカライズは「あやせif」に並行して「黒猫if」が連載され、コミックスが刊行されると知り正座待機に戻る…気分が上がったり下がったり忙しい限りです。
で、こちらは先行して連載され、すでに1巻が発売されている「あやせif」の2巻目。
もともとはPSP(作中でよく桐乃が持っている携帯ゲーム機です)用ゲームとしてで発売されていた「俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブル」の「あやせルート」のシナリオをほぼそのままラノベ化したもののようです。
「共通ルート」から分岐した「あやせルート」を、ざっくり
・ 告白まで
・ 交際開始後
・ 桐乃との対決
の順で綴っています。おそらくコミックスもそれぞれのパートに1巻ずつのペースになりそうです。
ラノベ版がかなり内容が薄い(少ないボリュームなのに、無理矢理上下巻構成にしている)ため、ラノベ本編よりどんどん進行が遅れていくことが多いコミカライズにあって、例外的にいいペースで進んでいます。
ところで、以下、しばらく繰り言です。
思うに、「if」編なので桐乃との対決部分はすっぱり切り捨ててもよかったのではなかったのでしょうか。
というのも、
――元となったゲームはラノベの完結よりかなり前に発売されているため、当時のプレイヤー(または、ラノベ読者)にも桐乃との決着はきちんとつけてほしいという空気はあったのかもしれませんが、
――だいたい、原作5巻で「黒猫ルート」に入ったと公表されて、桐乃が海外留学という形で退場したので、親友桐乃を取るか恋人京介を取るかの選択をそのルートのヒロインに迫るなんて残酷なことをする必要はなかったはずで、
――ついでに言えば、そもそも今これを読んでいて、物語のラストを知っていて、それに納得できず、だからこそ「if」編を読みたいという読者はそんな「対決」は望んでおらず、
――結局、桐乃とあやせ達サブヒロインの関係性と桐乃の気持ちの整理なんかは作者の自己満足の範疇だろうと思いますし、
――何よりの証左として実際ほぼ一から書き起こしたと思しき「黒猫if」では桐乃との対決シーンはさらっと流されているではありませんか。
――まあとにかく、ラノベのボリュームから言っても、このコミカライズは3巻構成で最後の1冊が丸々対決にあてられることになりそうですが、対決編はあんまり楽しみではないというか。
で、コミックスは1巻は告白まで、この2巻は交際を開始したばかりの中高生のバカップルがイチャイチャする話です。
要するに、この2巻こそが読者が一番読みたかったコミカライズなのです。
もともとがゲームシナリオで、ビジュアルがどうなるかを考えながら書かれているから(知らんけど)か、映画を見に行くシーンも、あやせから仕掛けたファーストキスのシーンも、付き合いたての可愛い彼女を自慢するシーンも、カフェで監視カメラを設置する相談をするシーンも、水着を買いに行くシーンも、占いで不穏な空気を察知するシーンも、そして海水浴場でのシーンも、みんなみんなラノベ読者が伏見つかさの文章からの脳内に描いた想像とほぼほぼ一致しているのではないでしょうか。
渡会けいじの作画も、今風の繊細な筆致であやせの表情や服装を再現していて、すんなり受け入れられる人が多いと思います。
印象的だったのは、この巻冒頭のラノベ本編の世界線で経験したあやせとの別れを夢に見て、京介が涙を流すシーン。
そうです。世界線が別なのですから、この世界線では京介の思いはあやせにだけ向かっているはずなのです。今こそ取り返しがつかないイベントを、ロードしてやり直すときなのです。
もう一つ、京介が「選択肢を選ぶ」表現もビジュアライズされて大変楽しめました。
「選ぶと死ぬ選択肢」だらけですね。
京介氏、ちゃんと三択で正解を引けるのはさすがです。
あと、「京介とあやせの娘」のイラストを描いてくれた謎の占い師は、槇島遥(高坂悠璃)ということでいいのでしょうか。
世界線を飛び越えて特別出演なのかな?
別の世界線から、別のキャラとの間にできた京介の娘を連れてくるのは反則じゃないかと思っていたのですが、後書きからするとやっぱり間違いなさそうなのですが…。
1巻にあった伏見つかさの書き下ろし掌編は今回は無し。ちょっと残念。
- 感想投稿日 : 2022年4月2日
- 読了日 : 2022年4月2日
- 本棚登録日 : 2022年3月12日
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