模倣犯3 (新潮文庫)

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本棚登録 : 5370
レビュー : 284
著者 :
hanemitsuruさん 宮部みゆき   読み終わった 

厚めの文庫5冊からなる大部の作品、三部構成のうち第二部の後半です。

以下にネタバレがありますのでいらんことを書いて間隔を空けておきます。

自分がブクログを始めたきっかけの一つに「蔵書管理をしたかった」ことがありました。管理しづらくて困っていたのは「蔵書」と呼ぶには違和感を覚える巻数の多いライトノベルのシリーズなのですが、ラノベってシュリンク包装されて内容を確認するのが難しいので、何巻まで買ったかわからなくなって、重複購入したり、飛ばして購入したりすることがまれによく起こります。

ブクログを利用し始めてからは、購入した巻はブクログに登録して、迷った時はそれを店頭で参照することで目論見どおりこのようなことは防げるようになりました。
ただ、ラノベに限らず持っている本を次々と登録するようになって登録数が増えてくると、ブクログ内の検索に手間取るようになって来ました。分類や並べ方に工夫が必要だと思っています。

そんな目的から始めたブクログですから、自分の本棚には、シリーズ物が巻毎に登録されています。ラノベやコミックスに限らず、この「模倣犯」も全5冊が並んでいます。
ところで、ブクログを始めてから読んだ本は読後感の忘れ防止のためにレビューして登録するようにしているのですが、巻毎に登録し巻毎にレビューすると変なところで切ってレビューをしなければならなくなって案外面倒です。

自分の観測範囲の皆さんの本棚は1巻目だけ登録してあることが多いように思えますが、これはやっぱりレビューのためなのかなあなんて思っています。
そう言えば、全巻登録して「レビューは○巻に」なんて書いている方もいらっしゃいますね。

と、これぐらい空けておけば大丈夫でしょうか。
ちなみに、この大部の作品もぶつ切りのところどころでレビューを書いていますが、これくらい長い作品だとちょうどいいかもしれないななんて思っています。


善と悪の戦いは第一部の有馬義男vs犯人グループから第二部では高井和明(カズ)vs栗橋浩美(ヒロミ)に舞台を移しました。

第二部で誰よりも何よりも気持ちを持って行かれたのは、カズのヒーローっぷりです。
スペックだけ見ればヒーローとは程遠いカズ。ヒロミの仮初の姿、大手証券会社社員(がエリート代表って今となっては首を傾げざるを得ませんが、まだまだバブルの残滓が残り、また作者が証券会社社員のことを何だか素晴らしい職業だと思い込んでいたのか、他にエリートらしい職業を思いつかなかったのか)とは天と地ほど、月とすっぽんの差があります。

しかし、彼は有馬義男と並んで、「真っ当な商売で地に足をつけて生活している」「大人の」男です。
(この2点こそが宮部みゆきのヒーローの条件です。巻が進むにつれ、繰り返し出てきます。また、前畑滋子はだからヒーローになりきれません)

何しろ識字障害と思われる障害を抱え、素直で真面目な性格であるにもかかわらず周囲から馬鹿にされ、のろまだ、グズだ、できない子だと思われ、望んで入ったソフトテニス部すら追われても心折れることなく、微笑んでいるカズ。
水泳部顧問の柿崎先生に障害を見抜かれ、診断の機会を得たことで彼の世界は一変しました。水泳部はきっと楽しく、学力も人並みに回復したことでしょう。でも、中学を卒業してすぐに家業のそば屋を手伝っているカズ。TVドラマを見ることが唯一の楽しみであるカズ。

彼のヒーローっぷりは、彼だけを見ていたのでは分かりにくいものです。それは、地に足の着いていない生活をしている幼稚な――子供そのものの相手と見比べたときに初めて浮き彫りにされるものです。読者にとっても、そして由美子にとっても。

一方のヒロミ。第一部は有馬義男に一太刀浴びせられはしたものの、正体不明で人間的な振る舞いとはかけ離れた所業から只管不気味な存在でした。第二部ではその生い立ちから犯行に至ったきっかけが詳細に、これでもかというほど書き込まれており、読者は不気味さに代わって醜悪さをこれでもかというほど見せつけられます。
彼の転落のきっかけは今で言う毒親の信じられない接し方ではあり、それに自らも余計者扱いされていたピースが火をつけただけで、実は彼自身の咎とするのは気の毒なのですが、でもそう思ってくれるのはカズだけ。詳細な事情を神の視点で全て知らされている読者でさえ、その後のヒロミのあまりのクズっぷりに、同情や共感できる人はほとんどいないでしょう。

でも、カズだけは彼を見捨てませんでした。

ヒロミの事情同様、カズの心中を知っているのは読者だけです。
柿崎先生の力を借りて、カズは障害を克服し、自信を取り戻しました。ヒロミとの関係を修正――切ることもできたはずのカズは、でもそうしませんでした。

ピースにスポイルされてしまう前は、幼馴染みのグズでのろまのカズをなにくれとなくかばい、フォローしてくれた親友だった彼。
そして、ピースの影響を受けて変容してしまった後も、カズに対してはその目の前で涙を流し、女の子の幽霊に悩まされていることを告白します。

カズはヒロミの中の幼馴染の部分を見ました。
その上に何層も毒が積み重なっていようとも、その奥の奥に幼く、小さい栗橋博美が今でも泣いていることを感じ取ったのです。

その後のカズの行動原理は、ヒロミの中の小さな栗橋博美を救うこと。
アジトの「山荘」に危険を冒して乗り込み、絶体絶命の状況で、あのピースを論破するカズをヒーローと言わずして他の誰がヒーローと名乗ることができるでしょうか。

カズの気持はヒロミに届き、善vs悪の第2ラウンドは善が勝利を収めたように思えたのですが…。
カズの詰めが甘かったのはご覧の通りです。
ヒロミのしたことがひどすぎて自分以外の誰にもヒロミを救えないとカズが思ってしまい、誰にも援助を求められなかったのか、自信を取り戻したとはいえ、カズの生来の決断力や実行力の乏しさが顔を出したのか、それとも宮部みゆきが意地悪なのか。

ところで、カズとヒロミの道行の結末が目も眩むほど悔しかったので、苦言を呈しておきます。
運転席、助手席のシートベルトが一般道でも義務化されたのは1992年から。以後は、後部座席はともかく、運転席と助手席は結構当たり前にシートベルトを締めるようになっていたのではありますまいか。それを、2人揃って締めていなかったというのはちょっと違和感を覚えます。以前「スナーク狩り」でも車に関する記述にあれ?と思うことがありました。普段車に乗らない生活をしているのかもしれません。

さらに、カズはまたピースの仮面にもヒビを入れました。
完全なる悪について滔々と語るピース、本性をペルソナの下に完全にしまい込み、非の打ち所のない好青年として振る舞うピース、姉の幽霊の殺し方を教えてヒロミを籠絡したピース、いずれを見ても一般的常識的な人間と大きくかけ離れている彼は、常識を秤にするしかない警察や、前畑滋子の手には負えなさそうな…このまま逃げ切ってしまうのではないかと読者を不安にさせる彼を、この後の第三部での無理な振る舞いに追い込んだのは、彼のシナリオは完璧なものなどではない、児戯に等しいと糾弾したカズの言葉に違いありません。

ヒーロー中のヒーローであるカズが犯人だとされ、真犯人Xはのうのうと隠れおおせている…そんな状態で第二部は終わってしまいました。
読者としては第三部を、4巻を一刻も早く読みたくて読みたくて…(再読でよかった)。

レビュー投稿日
2019年8月26日
読了日
2019年8月26日
本棚登録日
2004年5月5日
3
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