贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

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本棚登録 : 305
レビュー : 47
制作 : 宮部 みゆき 
hanemitsuruさん 宮部みゆき   読み終わった 

宮部みゆきは饒舌です。

同じ女性作家で、作品の中ですら饒舌だった栗本薫は、後書きなど自分が出てきていい場面では少し古めのネットスラング(核爆…いや、パソ通スラングかな?)を頻繁にさしはさんだ文章を垂れ流していました。
宮部みゆきも、「私」を出してよいとなった瞬間にやはり饒舌になります(ネットとか、ゲームとかが出てくるのも栗本薫と似ています)。作品でやってしまった「ここはボツコニアン」は大失敗だったと思いますが、選者や編者としてのコメントが饒舌なのは読んでいてとても楽しめます。

宮部みゆき「責任編集」を標榜していた「松本清張傑作短編コレクション」はこの饒舌ぶりが大変に面白く、現代ではややもすると生硬に感じられる文章で綴られた作品も興味深く読み進めることができました。
このアンソロジーも同様で、ミステリとともに宮部みゆきが書きたいのだろう恐怖小説についての語りを聞き、宮部みゆきを形作った作品に触れることができ、また読むものの幅も広がったように思えて得がたい経験となりました。

ミステリを書く人として宮部みゆきを知った自分からは、時々混ざるホラー風味を「余分なもの」「無理をして怖くしようとしてる?」なんて思っていましたが、そうではなく、それが書きたかったのだと知って、今後作品を読むときの感想も変わってくると思います。また、このアンソロジーの中で書いたきっかけに触れられている「取り残されて」なんかは再読してみようと思い立ちました。

また、『「え? これはあの有名な短編だよ! 小説だよ! パクってるじゃん!」』という『「知っている人には有名でも、知らない人には知られていない」ということのよくない側面』というのもうなずける話です。実際、収録作品のうち「猿の手」を自分が知ったのは西尾維新原作「化物語」のアニメでした。もしこのアンソロジーで読むことが無ければ、あれは化物語に出てくる話として覚え込んでしまうところでした。。

ただ、一つ残念なことがあります。
通読してみて分かったことですが、自分は「ホラー」というジャンルがあんまり好きじゃないということです。なんか純粋に怖がれないんです。どうしても「志村~!うしろうしろ~!」と言いたくなっちゃう。収録作品で言うと「獲物」なんかそうです。たいてい悲惨なものになる結果を回避する方策を考えちゃうのです。自分が怖がりだからかもしれません。

収録作で一番怖かったのが「幽霊ハント」。一人称の語り、ラジオドラマという設定がはまっています。イヤだイヤだと思いながら先を読む手が止まりませんでした。
お気に入りは「デトロイトにゆかりのない車」。落語ですよね、これ。

以下、収録作品別一言コメント。

「猿の手」
上記のとおり「化物語」に出てきます。
もともとはこういう話だったのね。編者の語りにあるとおり、知りたいと思ったが故に招いた不幸です。最初の所有者が死を願ったのもむべなるかな、ですが、この家に持ってきた曹長さんはどうしてこれをこの家にわざわざ持ってきて、そんな話をしようと思ったんでしょうね。
あと、3つ目の願い(若しくは、2つ目の願い)にもっと上手に条件を付けたらよかったんじゃないの、と考えちゃうのですが、上に書いた自分の悪い癖ですね。

「幽霊ハント」
怖かったです。
一人称・ラジオドラマって、「宇宙戦争」の例もあるように、もしかしたら特別没入感のある形式なのかもしれませんね。リスナーの人は大丈夫だったんでしょうか。

「オレンジは苦悩 ブルーは狂気」
途中まで引き込まれ、友人の後を追って友人と同様の陥穽に落ちていく様子に先を読み進む手が止まりませんでしたが、原因がちょっと興醒め。クトゥルーみたいに「見るだけでSAN値が下がる」ものだったらよかったのに。

「人狼」
編者の言うとおり救いのない話。語り手が自分もいずれは殺されるものだと悟っているのもより救いがない。
「無理な条件を呑まされ、その条件を破って酷い目に遭う」お話は、まんが日本昔話なんかにもあったような…。
でも、山霊はどうしてお父さんと狼を番わせようと思ったんだろう。

「獲物」
上に書いたとおり、「志村~!うしろうしろ~!」と言いたくなってしまいますw。
ファイナル・ストライクはお見事で、思わず自分の手を見てしまいました。

「虎人のレイ」
編者の言いたいことは分からないわけではありませんが、「我を忘れて、意識を取り戻してみると周囲には血だらけの人が倒れている」って典型的な厨二病ですよね…。ちょっと買いかぶり過ぎでは。

「羊飼いの息子」
編者の言うとおり「重宝」の語訳が光ります。

「のど斬り農場」
滞在費の対価として提供されるはずでは…?とか、この文章を書いているのだから笑い話だよね、とか考えてしまいます。やっぱり自分はホラーを読む適性が無いんだろうと思います。

「デトロイトにゆかりのない車」
これ好きです。落語の「死神」を思い出しました。
それにしても主人公のアレックスはたいした男です。最愛の女性のために絶対に勝てない相手に挑み、いったんは出し抜くとか最高です。

「橋は別にして」
ショートショート。
東京在住の人は共感するのかも。

「淋しい場所」
怖いほうへ怖いほうへと暴走した想像力(それはきっと、恐ろしいそれから逃げ切った自分の勇気を誇る気持ちの裏返しでもあります)が生み出した息遣いや手触りが、そのまま実態を持ったら…。きっと生まれるものはこれ以上ないほどおそろしいものに違いありません。
あと、なんとなくウルトラマンのガヴァドンを思い出しました。あっちは全然怖くないけどね。

「なぞ」
子供たちはお婆さんの思い出の隠喩ではなかろうか、と思いながら読みました。年をとるにつれ、昔のことから現実にあった出来事は、一つずつ「思い出」という名前の長持の中にしまわれていってしまう…。一人長持の外に残されたお婆さんを思うと、怖い…というより寂しくなります。

「変種第二号」
P.K.ディック、自分は実はあまり得意ではありません。ディストピアがなんだか生々しくて…。ディストピアって、それは豊かな生活を維持するために何かとても大事なものを一つ犠牲にする~例えば、次の「くじ」なんてきっとそうですよね~ものって意識があるのですが、この作品の世界は、シンギュラリティを超えた先にある悪いほうの世界として多くの人が想像するだろうものです。
ただ、最後にヘンドリックス少佐の心によぎった考えは皮肉です。独自に進化したAIは、結局お互いがお互いを破壊することを目的とするようになったのではないか…「あいつらざまみろ」ですよね。

「くじ」
わかりやすい。
似たようなシチューエションは他の作品でもよく見かけるように思いますが、一番怖いのは嬉々として石を集める子供、何かの遊びだと思ってうれしそうにくじを引く子供の描写でした。投げるほうにも投げられるほうにも、子供を入れちゃいけません。自分で判断できるようになる前に価値観を刷り込むのって恐ろしいです。

「パラダイス・モーテルにて」
ここまでの他の作品とはずいぶん趣が違います。正直言うと苦手なタイプの作品です。スター・ブライトの壊れっぷりを眺めればいいのかな…。あと、男女によって捉え方が変わるかも、って編者は言いますが…そうなのかなあ。よくわかりません。

以下、作品の一覧と掲載書です。
日本語訳の影響はとても大きいと思いますので、訳者の情報は作者名と同じくらい重要だと思っています。

猿の手 W・W・ジェイコブス 平井呈一訳
 A・ブラックウッド他『怪奇小説傑作集1』(創元推理文庫 1969)
幽霊ハント H・R・ウェイクフィールド 田中潤司訳
 A・ヒチコック選『一ダースの戦慄』(徳間ノベルス 1976)
オレンジは苦悩、ブルーは狂気 デイヴィッド・マレル 浅倉久志訳
 スティーヴン・キング他『ナイト・フライヤー』(新潮文庫 1989)
人狼 フレデリック・マリヤット 宇野利泰訳
 ジョン・コリアー他『怪奇小説傑作集2』(創元推理文庫 1969)
獲物 ピーター・フレミング 田中潤司訳
 A・ヒチコック選『一ダースの戦慄』(徳間ノベルス 1976)
虎人のレイ 『ブレス・オブ・ファイアⅢ』より
 『ブレス・オブ・ファイアⅢ公式ガイドブック』(エンターブレイン 1997)
羊飼いの息子 リチャード・ミドルトン 南條竹則訳
 『魔法の本棚 幽霊船』(国書刊行会 1997)
のど斬り農場 J・D・ベリスフォード 平井呈一訳
 紀田順一郎・荒俣宏編『怪奇幻想の文学Ⅳ 恐怖の探求』(新人物往来社 1979)
デトロイトにゆかりのない車 ジョー・R・ランズデール 野村芳夫訳
 ピーター・ヘイニング編『死のドライブ』(文春文庫 2001)
橋は別にして ロバート・L・フィッシュ 伊東典夫訳
 アシモフ他編『三分間の宇宙』(講談社 1981)
淋しい場所 オーガスト・ダーレス 永井淳訳
 仁賀克雄編『幻想と怪奇1』(ハヤカワ文庫 1975)
なぞ W・デ・ラ・メア 紀田順一郎訳
 紀田順一郎・荒俣宏編『怪奇幻想の文学Ⅳ 恐怖の探求』(新人物往来社 1979)
変種第二号 フィリップ・K・ディック 友枝康子訳
 ジョン・ブラナー編『ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅠ』(サンリオSF文庫 1983)
くじ シャーリイ・ジャクスン 深町眞理子訳
 『くじ』(早川書房 2006)
パラダイス・モーテルにて ジョイス・キャロル・オーツ 小尾芙佐訳
 オットー・ペンズラー編『愛の殺人』(ハヤカワ文庫 1997)

レビュー投稿日
2018年2月23日
読了日
2018年2月23日
本棚登録日
2017年6月27日
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