いわゆるポリコレ批判本だが、ポイントははっきりしているし、わかりやすいと思う。
ポリコレのムーブメントについて、
【問題の重要なポイントの一つは、他者から何らかの振る舞いを被った人が、「私は傷つけられた」という個人的な感覚に基づいて告発すれば、それを認定する公式法廷の裁定を待たずして、差別として通ってしまうという事実である】
という点がまず大きい。
「私のこの感情は絶対問題」である。
二つ目。
差異や格差があること自体がよくないとすること。【ある国民性のなかではどういう文脈で異なる人間どうし(たとえば男女)の差異が流通しているのかという具体的な事実が見えなくなる】
普通の男女のプライベートな関係におけるやり取りの構造を見ようとしない。男女の機微を、かかあ天下な家族、親権がどちらにもたらされやすいのか、等多様なパターンがなされている。いろいろな関係性がある。パパ活する女性は貧困のためにやっているのではない。事実は、上智や港区などにいる、恐ろしく裕福な女性もパパ活をしているので、その関係の細かさ・欲望の深さの解像度をあげるべきだが、そこまで思考できないのがポリコレの限界である。
つまり「人間の業や関係性の深さに対する無視問題」である。
男性は、物事をいったん「客観的対象」として突き放し、観念的な手続きを経てそれとかかわろうとする。
女性は、自分の心身と連続するものとして捉えている。
地図として街を捉えるのではなく、街並みや風景として覚える。男女の違いの議論でよくある話である。【ポリコレやセクハラについて議論をするなら、まずその前に、男と女が性愛に向き合う態度や、日常の心理と行動の型においてどういう根本的な違いがあるかについて、共通了解をもつべきである。】
【男と女の違いについての感受性をもっと大切にしたうえで議論しようと提案しているのである】
と、小浜氏は述べる。
男と女、パートナー同士が噛み合うのは、考え方も何もかも違うからである。
違いを違いのままにしていくのではなく、どちらか一方を潰そうとする思考。みなを統率する独裁的思考。ポリコレと独裁者の相性の良さにつながるような問題がある。「異なるから噛み合うという事実を受け容れられない問題」が三つ目にある。
ポリコレは「弱者としての符牒を持った特定の個人」の自由ばかりが認められ、それが「他者」の利益とのバッティングを常に起こし得るという当たり前の事実からどこまでも目を伏せようとする。他者との軋轢に無頓着である。
都市化により地域共同体が存在意義を希薄化させたとき、私は何者であるかという問いが、各人につきまとう。その何者であるかという問いを埋めるために、正しい人だというアイデンティティが入りこんでくる。
これは在日のアイデンティティの問題にも、そのアイデンティティ問題を誰が言い続けているのか、どのように動かしているのか、在日の人はどのように動員をかけられているのか、アイデンティティのどんな枠にはめているのか、誰が決めようとしているのか。哲学的に思考することそのものがタブーとされ、いつまでも憎悪と悔恨の中でこれからも永遠に生き続けて左派に利用され続けろというのが決まり切ったレールなのだろうか。
相手の否定によって、自分がより上位のアイデンティティを確保しているかのような気になれる。こういう傾向が集団的に共通心理として定着すると、ある違和を唱える人に出会った時に、それに対する不安を打ち消そうとする力が働いて、対話や議論抜きでみんなで排除しようとする。そして、「普通の苦しむ人々」はポリコレの目に入らなくなる。
どんなアイデンティティだろうが、政治家だろうが、みな、苦しんで死んでいっている。労働者は働き過ぎて死に、政治家は気が狂った男に撃ち殺されしかもその死は骨の髄まで右左の政治思想に利用される。誰も浮かばれないのが実体で、そのなかで、普通に苦しんでもこの世間を支える大人達に目を向けること。それが本当のポリコレだろう。
つまり、「被害者意識のままではなく、大人として前向きに生きていくことを受け容れられない問題」である。
まとめると、ポリコレの抱える/ポリコレからうまれる問題は以下の4つとなる。
「私のこの感情は絶対」=私が宇宙のすべてを決定する。私自身が大事だからだ。
「人間の業や関係性の深さは無視」=人間の欲望の深さは、私の許容範囲におさまるべきである。だから、気に入らないものは二次元でもダメである。
「異なるから噛み合うという事実を受け容れられない」=自分と異なる価値観の人間とうまく妥協したり話をあわせて落とし所を見つける努力をしたくない。
「被害者意識のままではなく、大人として前向きに生きていくことを受け容れられない問題」=いつまでも子どもでいたい。共同体を維持する責任を持つ大人になりたくない。
この4つが分かったのは、この本のおかげである。
- 感想投稿日 : 2022年10月12日
- 読了日 : 2022年10月12日
- 本棚登録日 : 2022年10月12日
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