男と点と線 (新潮文庫 や 69-1)

  • 新潮社 (2012年2月27日発売)
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本棚登録 : 571
感想 : 71
5

やっぱりこの人の書く小説が好きだ。
どうやったらこういう感性で文章を生み出せるのか。

よくわからないことも
意味深なことも
空気だけで伝わる気がする。


『慧眼』より
私たちは、いつか子どもができたら、と考えながら過ごしてきた。
けれど、恵まれないまま、二人の生活が続いている。
それでも、未来の子供たちとの日々よりも、今の妻との暮らしの方が、
いつだって今の自分にとっては大事だ、そう考えて暮らしてきた。


『スカートのすそをふんで歩く女』より(わたしはこの作品が一番好き)
いつか男の人と大親友になれる、と私は信じていた。
それが夢だった。
みんなが仕事をして、男の子たちは結婚をしていって、
それぞれに生活をしていき、
年をとるごとに大親友になれる可能性がどんどん薄くなっていくなんてことは、
想像だにしなかった。


『膨張する話』
オレたちは。一体いつまで仲が良いのだろう。
大人になっても、ずっと仲が良い、なんていうことは、ありえないよ、たぶん。

また暗闇の生活が始まる。
ガケップチを手探りで進むんだ。
年が若いと、死にそうになる。


『男と線と点』
相手を好きだと思うことは、自分を低くすることなのだ。
相手に優しくする権利が自分にあるというだけで、嬉しいことなのだ。

さおりのことを一所懸命考え抜いたせいで、
俺には精神的な愛とは何かが、わかりかけている。
一生、そっと好きでいるという選択肢があることを、
俺はつかみとったのだ。
早々と結婚した人には決して知ることのできない、この、
苦くて高潔な愛を俺は知ることができた。
新しい知識を手に入れたのだ。
俺はこれからも、さおりと会うときはずっと、
「あなたが大好きだ」という顔をして、
一秒、一秒、見つめようと思っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年3月21日
読了日 : 2012年3月21日
本棚登録日 : 2012年3月21日

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