ロボット工学の人による意識に関する本。受動意識仮説という自説について展開しているが、ものすごく分かりやすいのはちょっと感動するぐらい。<私>というのは、単なる意識のみならず、エピソード記憶を含めたモデルだというのが中心。著者はAIの人なので、こういう捉え方で、今後のロボット開発などに実装してゆくのだろう。内容的にはLibetの説と特に変わったところはない。我々の認知は錯覚にすぎず、「赤いリンゴ」が見えてるのではなく、「赤い」と「リンゴ」を脳が勝手に合成しているだけ。バインディング問題なんか不要。自由意思も実は単なる後付けの理屈にすぎず、よく言われるように「悲しいから泣くんじゃない、泣くから悲しいのだ」という機械論的な立場をとっている。クオリアの問題も、実はクオリアを感じる私、という機能があるだけで、そこに特別なものを想定する必要はないという。川人先生の、「脳内では多数の並列的な処理がされているが、意識に上る時点では簡単な直列処理として認識される」という(おそらく正しい)説をベースに開発を続けているようで、これは「心を持っているように見える」ロボットを作るためには正しいアプローチなんだろう。でも、実際は「川下にいる<私>」として、認知を統合し、感情という形でエピソード記憶を強める何者かが必要になってくる。意識を説明する、という点では昔のホムンクルス問題から一歩も進んではいない。
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- 感想投稿日 : 2008年3月30日
- 読了日 : 2008年3月30日
- 本棚登録日 : 2008年3月30日
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