2001年の刊行当時話題になったときは読み損ねていた本で、明治文学史の勉強も兼ねて読んでみたのだが、やはり話題になるだけのことはあり、面白かった。
当時、話題になっていたのは、1・花袋がAV監督になったり啄木が援助交際したりといったSF的なパロディーの要素、2・連載中に作者自身が胃潰瘍で倒れた「原宿の大患」で、これは実際の患部のレントゲン写真が本の中に載っているという前代未聞の試みだった。そして、3・漱石「こころ」の解釈については、当事の論壇で激しい議論を呼んだものだ。
これはその是非についてはおくとしても、議論になるだけの強烈な魅力があることは確かだ。ネタばれにならない範囲でメモしておくが、つまり「こころ」における先生と、K、もしくは語り手の「私」は、漱石自身と、漱石が裏切った(もしくは裏切ったという良心の呵責を抱いた)ある文学者との関係が反映しているというもので、しかも当時の政治や社会も絡んだ上での「裏切り」だったというのだから(しかも事実に基づいて推測しているのだから)、これは激論になるのも当然と言える。「こころ」についての章はきわめてスリリングだ。
どうしても「こころ」に注目が集まってしまうが、それ以外の章も高橋源一郎のパスティーシュの腕が冴えており、樋口一葉と当時の文学青年たちの交遊を、思いきり現代を舞台に移植して、サガン風の文体で書いた章なども皮肉が効いていておもしろい。
高橋による明治文学史研究にして、高橋ポストモダン文学の到達点と言える傑作だと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
純文学
- 感想投稿日 : 2011年2月2日
- 読了日 : 2011年6月14日
- 本棚登録日 : 2011年2月2日
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