俺俺

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本棚登録 : 809
レビュー : 191
著者 :
helplineさん 純文学   読み終わった 

 オレオレ詐欺が真に恐ろしいのは、両親が電話の主が自分の子どもかどうかわからないことだ。両親が自分の子どもを区別できないなら、自分が自分であることを区別できる人間がどこにいるというのだろうか。オレオレ詐欺は、現代人のアイデンティティーに深刻な疑念を投げつける。

 「俺俺」は、「俺」が増殖していくSF小説だ。実家に行くとそこには「俺」がおり、コミュニケーションの障害に悩んでいた「俺」は、「俺」との交流に満足を感じるが、やがて「俺」との間でも不協和音が生じ、無数の「俺」が出現するに至って、事態は急速に破綻へと向かっていく。

 この小説を読んでいると、読んでいる方もアイデンティティーの揺らぎを感じることにならざるをえないだろう。というのも、自分の意志が明確でなく、「場」に染まりやすいとか、コンプレックスの塊であり、自己卑下的で、しかしそれとは裏腹の高いプライドも持っているとかいった「俺」の性格は、読者の「俺」のものでもあるに違いのだから。この小説は、語り手の「俺」と読者の「俺」が混線していくことも明らかに狙いとして持っている。

 そのことを考え合わせると、「俺俺」が読者参加型のリレー小説というツイッター企画の素材として提供されたこともおもしろい。読者が書き手となり、「俺」となって、無数の「俺」を書き継いでいったということなのだから。ここでは、「主体の揺らぎ」についての幾重もの実験がある。

 「俺」という主体の自己同一性の不確かさを小説において展開した意欲的な実験作と言えるだろう。

レビュー投稿日
2011年2月18日
読了日
2011年2月15日
本棚登録日
2011年2月18日
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