虚無への供物 (講談社文庫 な 3-1)

著者 :
  • 講談社 (1974年3月1日発売)
3.77
  • (143)
  • (110)
  • (208)
  • (13)
  • (6)
本棚登録 : 1268
感想 : 135
5

ミステリーズ・フリークの素人が突飛な迄の推理を始める所から始まり、奇々怪々な事件が次々と起こるのを更に追窮し、非現実被れした登場人物の眸に現実を一層狂おしく見せるという、奇抜な作品である。或る意味で、「黒死館殺人事件/小栗虫太郎」とは混沌としていくものが内と外で反対になっているとも思える。

この小説には、現実のものが含まれ過ぎている。三大奇書と称される残りの二作や乱歩・外国の探偵小説、音楽、地名… まるでこの小説の中で起こる事件のみがフィクションで、それを書き上げる「現存在」のひとりの人間の感慨深い“日記”であるかのように。如何にも、この作品の中では推理小説を書くという描写が多々含まれているが。

人間の悪意とは、どの点を指すのだろうか。現実の偶然は、何処まで繋がりを持つのだろうか。―或いは運命や偶然とは人為的な賚に過ぎず、疑念や固定観念を以て現実と照合すれば、必ず何かしらの―その人間の思惑に遵って―驚くような、或いは気味の悪いようなもの、狂気染みたものとして現れ出すのではないだろうか。意味有り気なものばかり拾い集め、そうして「偶然の一致」を探り出した人間は、それらの連なりに勝手な意味を孕ませ、「現実の思召し」として拵えて仕舞うのではないだろうか。

この素人探偵たちの勝手な推理談が齎した顛末や、実際の被害者を思うと、胸が悪くなるような不愉快さを覚えずには居られず、★4つにしたい気持ちにさえなる。
しかし、それさえもこの作品が世間一般の「ミステリー小説」でなく、人の世の苦々しさに対する作者の感傷を訴え掛ける為の作品だとすれば、これ程切なく痛ましい末路を辿る作品は他と無いだろう。

斬新な発想や、ミステリー特有の練り込まれた展開論も然りだが、哲学的な意味でも、この作品は優れたものだと感じる。
一見、読み辛いように思えるが、実際読み進めていくと無意識に次々と頁を捲って仕舞うような魅力を持っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2012
感想投稿日 : 2012年8月15日
読了日 : 2012年8月15日
本棚登録日 : 2012年8月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする