東京に暮す: 1928~1936 (岩波文庫 青 466-1)

  • 岩波書店 (1994年12月16日発売)
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昭和初期の東京の生活の様子をイギリスの外交官夫人であるキャサリン・サンソム氏が項目ごとに整理して記録したもの。心配する自国の友達に報告したものらしいのだが、その観察眼や優しい視点が只者ではない。

1.日本上陸
2.日本の食事
3.日本人と労働
4.日本の伝統
5.百貨店にて
6.礼儀作法
7.樹木と庭師
8.日本人の人生
9.社交と娯楽
10.日本人と旅
11.日本人とイギリス人
12.日本アルプス行
13.日本の女性

繰り返し述べられているのは、日本人が純朴でおだやかであり、礼儀正しく親切であること。身分や収入の多寡に関わらず美的センスがあり、あらゆる生活用具が芸術品であること。また、自然が美しいことや、女性が魅力的で動作が美しいこと、みんなが子供をすごく大事にすること等が強調されていた。
少し褒め過ぎで照れくさくもあるが、何となく言いたいことの雰囲気は伝わってくる。

江戸時代1868が終わって60年の昭和初期(1928)においては、まだ江戸の伝統も色濃く残っていたのであろう。今2016から90年近く前の話だから、今より江戸に近い空気であるはずだ。一方で、この頃できた百貨店の活気あふれる様子が紹介され、伝統と西洋文化がうまく融合していることに感動している。挿絵を見る限りでは、普段着はほとんど和服で、学生服やバスの車掌さん、結婚式のモーニング、ダンスホールに行くときなど、必要に応じて洋服という感じだろうか。電車の中はスーツと和服と半々だった。

普通の家にも床の間があり、季節に応じた美術品を飾って楽しむこと、庭師が強い権力(?)を持って庭の美感を決定することが特に印象に残った。
これらは、禅宗的な発想が浸透していたことの現れだろうか。

いずれにしても、戦争に向かってゆく社会にしては、穏やかで生活を楽しむ人々の姿が印象的で、友達に心配させまいと明るく書いたにしても、実際のところはこんな感じだったのでは・・・と思わせる。
現在は、この頃より良くなった部分も多くあるが、この頃の心の豊かさの大事なところで失ってしまった部分も多くあるかもしれない。
今、インバウンドで日本に来ている外国人も同じようなことを言ってくれる気もするし、「日本人は少し疲れていて余裕が無いね」と言われるような気もする。

我々は、戦後何もない状態から今が成り立っている話はよく聞くが、それ以前の生活や文化については戦争と無関係に接する機会が少ないため、戦争のバイアスのかからない外国人のこのような率直な印象や記録は、当時の実像を推測する上で貴重な資料だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年8月30日
読了日 : 2016年8月25日
本棚登録日 : 2016年8月25日

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