19世紀初頭から末にかけて偽造文書作りをなりわいとした者を通じて描かれる、憎悪と歴史。
記憶を取り戻すため、日記を書くことにしたという体裁でスタートするが、どうも様子がおかしい。ときおり倒れるようにして眠ると、別の人間が自分の日記の続きを書いている。「語り手」はその2人の記述を補うように「物語」を書き足す。
エーコらしい、メタフィクションだといってしまえばそれで終りなのだが、エーコらしく、隅々に歴史や美術、当時の風俗に関する描写がちりばめられていて楽しめる。
語り手によるフィクションでありながら、実在する登場人物たちを華麗に操作しながら語られる、ある種の歴史であり、その意味で、虚構と事実と”語られたもの”との交錯がテーマ、ともいえるかもしれない。19世紀においては、それらはほとんど区別できなかったようだし(意図的に区別せず利用した場合もあったようだし)、その点は、実は現代でも同じだ(トランプ氏をみよ)。
社会が動くとき、そこには”作り出された”現実とともに、リアルな憎悪といった感情が必ず伴い、だからこそ、私たちは理性と言うものを発明せざるを得なかった。何もかもを放り出して理性を忘れた動物となるとき、人は想像もできないほど感動的に、残酷になれる。だからこそ、私たちは理性的な語りをし続けなくてはならないのだ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
novel
- 感想投稿日 : 2016年10月18日
- 読了日 : 2016年10月18日
- 本棚登録日 : 2016年10月18日
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