フーコー入門 (ちくま新書)

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レビュー : 65
著者 :
hiroさん 思想・哲学   読み終わった 

史上最も偉大だとされる哲学者であるミッシェル・フーコーの晩年を、主要な著作とその概要を交えながら描いた本。解説もわかりやすいし、何よりこの一冊で、フーコーがどのようなことを問題意識として持ちながら人生を歩んだのかが良くわかる。この点において、本書はかなり有用だといえるだろう。

フーコーの数ある著作のうち、最も示唆的なものは「監獄の誕生」であると個人的には感じる。なぜなら、後から述べるように、従来信じられてきた「権力」に関する概念を全く新しいものに構築し直した上に、それは現代まで通じるものであるし、加えて、あらゆる学問分野・生活に適用可能だからである。これが幅広い読者によって長年読み続けられてきたのが何よりの証拠であろう。

さて、監獄の誕生において、フーコーは何を主張したのか。フーコーがこの著作を通じて主張していることは、「主体内部の権力」に関することである。古代ヨーロッパにおいては、罰則とはすなわち体罰を表した。それは鞭打ちに代表され、人間の身体に直接ダメージを与えるものであった。つまり、人間の「身体」という外部的なものに罰を与えることによって、人間の「精神」を正すことが目的とされたのである。これはいわば「従順な身体」を作ることだといえる。例えば、軍隊がいい例になろう。軍隊では規律を乱す人間には容赦なく殴る・蹴るなど身体的な罰則が与えられ、それに従って、やがって軍人の「精神」を持つようになるのである。つまり古代における罰則のベクトルは、身体⇒精神という方向性を持つものであったといえる。

だが、この罰則は中世ヨーロッパを境に激変することとなる。この変化をもたらした主要因とは、「監獄の誕生」であった。すなわち、罪を犯した人間を「監獄」という非社会的環境におき、精神の矯正を図る形の罰則が誕生したのである。従って、従来の罰則のベクトルが逆転することになる。監獄の誕生によって人間の「精神」という内面的要素を矯正することによって、「身体」の正統性の確立が目指されたのである。

フーコーは中世ヨーロッパにおけるこの監獄の誕生に着目し、新しい権力論を主張した。それはすなわち、従来の権力とは「相手を支配・抑圧」する力であったが、中世以降は「相手自身の内面から支配・抑圧」する力へと変わったと指摘したのである。これらはそれぞれ、前者が「身体⇒精神」の罰則、後者が「精神⇒身体」の監獄と対応している。複雑な近代社会を作り上げるためには、一人一人の人間を「従順な身体」にすることは不可能である。従って、権力者の意のままに動く従順な人間を作り出すためには、彼ら自身が自発的に行動し、近代というメカニズムの歯車になる必要がある。近代では、こうした主体を形成するために考え出された装置の一つが「学校」であり、先生が学生に知を「真理」として供与することによって、学生という主体を「精神」から支配するのだと、フーコーは主張する。

この原理を建築的に示したのが、イギリスの法学者であるベンサムであった。彼はパノプティコンという装置を考察した。これは、円環上に配置した建物の中心に見張り台が設置されているという状況である。重要なことは、見張り台からは建物の中で暮らしている人間を自由に監視することができるが、そこで暮らす人にとっては見張り台にいる人間が見えないことである。つまり、見張り台には常駐の監視者を設置する必要がない。それにもかかわらず、建物で暮らす人にとっては「見張られている」可能性が常時発生するので、自身の心の中に第二の監視者を設置してしまうのである。このようにして、パノプティコンは個人の主体の様々な欲望を絡めとり、内面からそれを支配するのである。このように、主体の内部から相手を支配することが、フーコーの主張した新しい権力論である。

このような監獄の誕生という歴史を踏まえたうえで、現代まで通じる権力論を展開したフーコーの主張は見事といわざるを得ない。フーコーが人生の課題としたことは、その時代において絶対に真理だと考えられていることは、実は歴史的・権力的に形成されたものに過ぎず、普遍的なものではありえないということであった。「監獄の誕生」はこの点を見事に表している著作だといえるだろう。

レビュー投稿日
2011年11月24日
読了日
2011年11月24日
本棚登録日
2011年11月20日
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