電撃戦という幻 (上)

  • 中央公論新社 (2003年2月25日発売)
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感想 : 6
5

著者カール=ハインツ フリーザーは明らかにアメリカのストラテジスト、ジョンボイドのOODAループの影響を受けて、この著書を書いていると思われる。
劣勢勢力によるOODAループの意図せざる活用によるワンサイドゲーム、という展開に刮目。欺瞞、混乱、高速テンポによる撹乱により、相手の指揮命令系統に干渉して、ほぼ戦わずして、連合軍が混乱、消滅、壊滅していく有様がライブに描かれていた。後にプロパガンダとして過大に喧伝された電撃戦という概念も、この西方戦役においては、ほぼ偶然の産物。ポーランド侵攻後、イギリス、フランスに宣戦布告されて仕方なく、計画を練ったが、第一次大戦で塹壕戦で停滞の憂きにあったシュリーフェンプランの焼き回しで四苦八苦している参謀部を尻目に、機甲戦が突破口になるというマンシュタイン(計画後に左遷)とグーテリアン(機甲戦の実際の指揮者)の作戦レベルのコラボ案件が採用され、当初乗り気でなかった参謀部がやっているうちに本気になった、偶然の産物であったということがよくわかった。電撃戦という概念は時代の節目に偶然に生まれたものだった。
下巻はヒットラー含む司令部までが電撃戦の威力に恐れをなして混乱に陥っていく(無駄な侵攻停止を乱発し、後のダンケルクの奇跡を生み出し、イギリス反攻のきっかけを生み出してしまう)有様が展開されるのだろう。近代のハンニバルのカンナエの戦いの再現、意志貫徹ができなかったことにより、作戦面では成功を収め、当時史上最強と謳われたフランス軍を崩壊させるも、イギリス軍を中心とした連合軍を取り逃がし、反攻の目を詰むことができなかった、戦略上の失敗の結果。歴史の節目、異なる概念の衝突が、ドラマチックに描かれる。秀作。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年4月22日
読了日 : 2017年4月22日
本棚登録日 : 2017年4月22日

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