絵本の力学

  • 玉川大学出版部 (2011年3月23日発売)
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感想 : 3
4

絵本学の基本書。おわりに、の文章はまとめとして優れている。

本文で引用される作品が、日本の作者は『旅の絵本』だけで、その意味で身近ではないかもしれない。しかし、章立てに示された絵本を読み解く視点(1.この本は誰のものなのか。2.設定。3.性格描写。4.語りの視点。5.時間と動き。6.模倣的再現と非模倣的再現。7.比喩的言語、メタフィクション、相互関連テクスト。8.絵本の周辺要素。)は、基本的で、外せない。

・絵=図像の記号の働きは、描写したり具体的に表現したりすることである。それに対して、ことば=約束事に基づく(言語的な)記号は主に物語るという働きをする。
・「読者反応理論」は、テクストの中にある”間隙(空白)”という概念を中心にする。言葉も絵も、読者がすでにもっている知識や経験、期待などで埋められなければならない”間隙”を残しているし、この”間隙”を埋めるにあたって、言葉と絵の相互作用は限りない可能性が見つかるだろう。
・絵本の絵は単に装飾の場合と、読者の作品体験を高める場合とある。
・一般に、絵本は人物描写中心と言うよりは、プロット中心。
・物語論の視点。1.文字通り知覚としての視点。2.イデオロギーや世界観など比喩的な概念上の視点。3.比喩的に拡大して使い、語り手の利害という視点(語り手は、語ることでどう利益を得るか)
・絵には、文字通り「全知」の視点を伝える可能性がいくらでもある。
・絵本におけるページターナーは、小説におけるクリフハンガーと同じ役割。読者を惹きつけ、次のページをめくりたくさせる。
・絵本ではしばしば、ことばと絵による持続時間の表現形式が矛盾する。文章を読むと、もっと続きが読みたくなるが、絵を見ると、立ち止まって一つの絵を読み解かねばと思うなど。
・実証的な研究によると、子どもの読者はタイトルで本を選ぶ(または拒絶する)
・曖昧な絵とことばの手法は、この一世紀のあいだに人びとの生活に起こった変化を映し出している。その変化とは、絶対主義から相対主義へ、みなが理解できる行動様式から個人の好みへ、共有された普遍的な価値観から状況によって変わるその場限りの道徳観へ、あるいは共同体から個人が疎外された状況へという変化。読者は、努力して意味を見つけ出す、あるいは自らが意味を作り出すことすら求められる。
・絵本は子どもと大人がいっしょに協力し合う関係を築くには格好の場となる。
・絵本という形式は、ことばと絵との境界線を引き直す。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本<絵本・児童文学論>
感想投稿日 : 2015年1月30日
読了日 : 2015年1月30日
本棚登録日 : 2015年1月30日

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