松本市に住み、ふだんづかいの木の器を制作する工芸作家、初の画文集は、静かな本だ。
丸テーブル、小屋、窓など、暮らしの周辺を綴った文章と、仕事部屋の空気ごと写し取ったような、柔らかな絵の写真。ゆったりした手仕事の速度の生活は、仕事以外のことも入りやすくなる。
昔から書く字が小さかったばかりか、話す声も小さくて、そのことがコンプレックスだったという著者。二十代のころは劇団に所属して、「薬缶を愛さないで、もっと人を愛せ」と言われた。つまり、「ちゃんと人間と関われ」と。十年ほど、その言葉の重さを受け止めて暮らした。そして結婚し、木工になり、関心は暮らしそのものに向かう。「僕たちはいつも素材に手を触れ、これでいいのか、この使い方でいいのかと、自分の体の『生理』にひとつひとつ相談しながら作業を進めていく」という。心が透きとおる。
(週刊朝日 2010/8/13)
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週刊図書館 400字評
- 感想投稿日 : 2011年4月16日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2010年8月13日
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