常に勝者側に付く処世術で、粛清吹き荒れる革命期を凌ぎきったフーシェの伝記。それを成さしめたのはあらゆる情報を手元に集め、巧みに用いた警察力で、警察組織が近代国家の要件であることを思うと、こういう人物が現れたのはより象徴的に感じる。変節漢で虐殺者、陰謀家でありながら表向きは慇懃丁寧なフーシェが、じきに魅力的にさえ見えてくるのは、著者一流の人物描写ならでは。今回採用されたカバー表紙の華やかな肖像画は、暗いキャラクターも糊塗すれば奇麗に見える実例の様で面白い。激動の時代を生き延びる高位の人間は畢竟「卑劣」だという提示でもあり、無節操に対して誠実ですらあった人物像は、伝記の一つの到達点と感じた。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文芸
- 感想投稿日 : 2024年9月21日
- 読了日 : 2024年9月8日
- 本棚登録日 : 2024年9月8日
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