オレたちバブル入行組 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2007年12月6日発売)
4.10
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感想 : 1759
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1.著者;池井戸氏は、子供の頃から国内外のミステリ―を読み漁ったそうです。大学卒業後に三菱銀行に入り、32歳の時に退職。その後、コンサルタント業の傍らビジネス書を執筆。「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー。氏は、ミステリ―のセンスを企業小説と融合させた新しいタイプの小説家と言われています。江戸川乱歩賞(果つる底なき)と吉川英治文学新人賞(鉄の骨)及び直木賞(下町ロケット)の三賞を受賞した実力作家。
2.本書;「倍返し」で有名な半沢直樹シリーズの第一作。半沢は大手銀行に入行し支店の融資課長。気乗りしない融資条件を支店長のゴリ押しで通したばかりに追い詰められていく。いわれなき責任を負わされ、濡れ衣を自ら晴らしていく、というストーリー。銀行用語が所々に出てくるが、分かり易く解説されており、池井戸氏(元銀行員)ならではの読み応えある小説。九章の構成。序章;就職戦線~終章;嘘と新型ネジ。
3.個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
(1)『第二章;バブル入行組』より、『「お前んとこの支店長(浅野)、あの融資はお前のミスだと主張している」「西大阪スチールでの信用事故は、融資課長である半沢の力不足により、通常であれば当然に見破る事の出来た粉飾を看過ごした故に起きたもので、半沢の財務分析を信用して行った自分(浅野支店長)の与信判断は間違っていなかった」』
●感想⇒集団の人材構成には、2:6:2という原則があります。優秀な働きをする人が2割、普通の働きの人が6割、貢献度の低い人が2割。これを応用すると、人に責任を擦り付ける人が2割、責任を認める人が2割となり、嫌な人は何処にもいます。ある課長の話です。彼は社内の共同仕事で失敗があると、自分は逃げていつも他部署に責任を負わせる人でした。その仕事のリーダーである役員はそれを見通して曰く、「ああいう課長の下で働く部下は可哀そうだ」と。彼はそれ以降、昇進する事はありませんでした。こうした人を見る眼があるトップは少数派と思います。こういう人の下で仕事をしたいものですね。
(2)『第三章;コークス畑と庶務行員』より、『態度が悪いという点では国税はヤクザの比ではない。・・気に入らない事があると「シャッターを閉めるか?」と常套句と化した脅しの言葉を吐く。間違ったエリート意識、歪んだ選民思想の産物で、つまらぬ奴らに権力を持たせるとこうなる、の典型だ。・・上げ膳据え膳の殿様商売、どうせ局に帰れば上役にへこへこしているに違いなく、その腹いせに銀行に当っているのではないかと勘繰りたくもなる見下げ果てた連中だ』
●感想⇒私は、若い頃に経理の仕事をした経験があります。会社は、特別監査法人に指定されていました。4~5名の国税調査官が約3カ月監査します。その中に、1名は叩き上げのの調査官がいて、気に入らな事があると、「課長を呼べ」と言い、鬼の首をとったように怒鳴り付けました。何かの腹いせに、当たり付けているように見えました。会社も、昼食やティータイムでの配慮が行き過ぎと思いました。現在は、そういう事は減ったと思います。「人のふり見て我が振り直せ」と言います。名言ですね。最近某税務署を訪問した際、言葉遣いや対応が一般企業並みになっていました。当り前の組織になったのですね。
(3)『終章;嘘と新型ネジ』より、「半沢は、銀行という組織にはほとほと嫌気がさしていた。古色蒼然とした官僚体質。見かけを取り繕うばかりで、根本的な改革は全くないと言っていいほど進まぬ事なかれ主義。蔓延する保守的な体質に、箸の上げ下げまで拘る幼稚園さながらの管理体制。なんら特色のある経営方針を打ち出せぬ無能な役員達」
●感想⇒半沢の銀行に対する思いは、歯切れがよく共感を呼ぶでしょう。バブルの絶頂期には、大企業は銀行に限らず、護送船団方式で成長してきました。従って、保守的な管理体制で、長期的視点でものを見ず、短期指向でもそれなりの業績を上げられました。企業は、社員の生活を守り、社会貢献しなければなりません。厳しい競争を強いられている中で、そうした使命がある以上、経営的には、なかなか冒険出来ないと思います。しかし、組織人には半沢の反骨精神が羨ましく、その言葉に溜飲が下がるのも事実です。半沢の言葉が愚痴に終わらない社会が来ると良いのですが。
4.まとめ;本書は、テレビドラマになり、初回の平均視聴率は20%と人気を博しました。主演の堺雅人さんの名演技もさることながら、「倍返し」のセリフなど、多くのビジネスマンの共感を呼びました。作家の新野さん曰く、「どんなに小突かれても折れない半沢の姿、組織に従いながらも譲れない一線、捨てられない矜持が見えてきた時、明日も働く元気が湧いてくる」と。働く人を奮い立たせる一冊で、ビジネス本というよりも、人間ドラマがあります。池井戸さんは、「女性読者にも是非読んで頂きたい」と言っていました。 (以上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年7月5日
読了日 : 2022年2月10日
本棚登録日 : 2022年2月10日

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