十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

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本棚登録 : 11034
レビュー : 1244
著者 :
ひ  よさん 小説   読み終わった 

 狂気に捕らわれた一人の人物のモノローグから、物語は始まる。
 大学のミステリサークルに所属する7人は、かつて、奇才の建築士中村青司、最愛の妻、そして使用人夫妻の4人が青屋敷という館の焼け跡で見つかり、庭師1人が行方不明となった事件の発生した角島、青屋敷の離れである十角館を訪れる。ミステリ好きの興味をそそる過去の事件、異様な佇まいの十角館、本土のサークル員らの家に届いた中村青司からの手紙。
 そして、1人ずつ、ミステリサークルのメンバーが殺されていく。犯人は自分たちの中にいるのか、それとも、中村青司が生きているのか。
 人里離れた洋館、真相が闇に包まれた過去の事件、そして誰もいなくなっていく…。著名な海外ミステリへの敬意溢れる、古典的ミステリの潮流を包括するストーリー。



 「綾辻以後」、そう言われて然るべき小説だと思った。
 あの人物が自らの名を名乗った時は、瞬間、頭の中がパニックになった。あれ、似たような名前の人が島にいたよな!? じゃなくて…!
 ミステリサークル員らが、古典的海外ミステリ作家の名を渾名として持っているという設定は、古典的ミステリへの敬意だけではなく、よもや最も強大な読者に対するトリックだったのだ! サークルで本名からかけ離れた渾名で呼び合うというのはわたしにとって親しみあることだったので、プレビュー等で言われていたような違和感は全く感じなかったし、最後まで読み終わって、やられた! とすっきり驚かされるばかりだった。

 何度も登場人物を確認しなくてもスッと入ってくるキャラの立った人物設定で、ただの仲良しの集まりではない彼らの微妙な関係も彼らの年代にそぐうものだと感じる。
 登場人物たちの描写、本土と島での話が交互に描かれるよく練られた構成、矛盾のない流れと展開、何より大胆かつ予想外のトリック。全体の中盤あたりまで殺人は行われないにもかかわらず全く飽きは来ず、読み返してもまた楽しめる内容。これがデビュー作なんて! 読書数は少ないけれど、今まで読んだ作家のデビュー作の中では一番素晴らしいとわたしは思う。

 動機については弱いように感じたが、果たしてしかし、ここまで大がかりで大胆で緻密なトリックを考え実行してまで6人もの人間を殺すに足る動機というものがあるのだろうか、という疑問に駆られる部分もある。だが、直接手を下したわけではない彼ら、しかも自らの友人たちを殺す動機としては、やはり希薄だと思わざるを得ない。

 わたしは、エラリィの「推理小説は、…読者対名探偵、読者対作者の刺激的な論理の遊び――それ以上でも以下でもない。だから、一時期日本でもてはやされた“社会派”式のリアリズム云々は、もうまっぴらなわけさ。…ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうが、やはりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック……。絵空事で大いに結構。要はその世界の中で楽しめればいいのさ。但し、あくまで知的に、ね」といった考えに全面的に賛同はしない。わたしは社会派ミステリも好き。
 でも、この本は素晴らしい! と言いたい。確かに、その世界の中で楽しむ、という意味では、現実的な設定の上で血みどろの惨劇が行われるより、エラリィのいうような時代遅れのこれぞミステリな設定で知的なトリックと推理の披露がなされる方がずっとずっと良い。
 この本はまさしくエラリィの言う定義にぴったりと当てはまっている。とても楽しめた。
 この作者さん、凄い。館シリーズ、読み進めていきたい。

レビュー投稿日
2016年2月11日
読了日
2012年3月
本棚登録日
2016年1月24日
6
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