アメリカにはもう頼れない 日本の外交戦略の失敗をどう正すか

  • 徳間書店 (2010年10月1日発売)
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戦後、なぜ日本が平和でいられたのか。そしてなぜ今、その平和が危機に瀕しているのか。これからの日本は国家としてどのような考えを持つ必要があるのか。著者はアメリカにおける、主に軍事関係への豊富な取材経験をもとに本書中で指摘し、警鐘を鳴らしている。

一番の要因はアメリカの軍事戦略変更にあるという。
戦後、アメリカの仮想敵国は第一にソ連であった。日本はその前線基地として重要な位置にあり、ここに軍事力を集中することでアメリカにとってソ連をけん制することができた。この軍事力を、自国に対しての軍事的抑止力として利用できたのが日本であった。

さらにソ連崩壊後、理由が明らかでないままにどんどん軍事力の増強を図っていった中国を、アメリカは警戒した。このときの軍事拠点も、日本であった。日本はアメリカの軍事力を背景に、自国の軍事戦略をほとんど考えることなしに経済活動に専念し、世界第2位の経済大国へと発展した。

著者はこうしたアメリカの軍事戦略が、現在転換期を迎えていると指摘する。

今やアメリカの関心は中東に向けられており、現在オバマ大統領が必死に攻略を図っているアフガニスタンがアメリカにとって第一のターゲットである。当然軍事力は中東に集中することとなり、アジア地域へのけん制はグアム、ハワイ、アラスカの各基地に配備されている設備によって賄われるという。この地域での活動で重要な役割を果たすことになる偵察機は無人のものが用意されており、事実上日本の領土に米軍基地が存在する意味は、アメリカの国家戦略上薄れてしまった。

こうなれば、本書のタイトルどおり日本はアメリカの軍事力に頼って経済活動のみに勤しむわけにもいかず、自力で外交・軍事の問題に対面していかねばならなくなる。実際、そういった状況がすでに訪れているのである。これからの時代、もう頼ることができなくなった大国アメリカとの関係を良好に保ちながら、国際的な常識を踏まえた外交を展開していくことが、日本には求められる。

そしてその常識は、我々一般国民が持たなければならないものであることを忘れてはならない。選挙に際して我々は、候補者が国内の問題だけでなく国防や外交についてどのような見識を持っているか、厳しく見定めなければならない。主権国家としての認識に欠ける信頼性のない外交を行うことは、日本が世界の中で孤立することにつながる時代である。



なお、中国経済弱体化のシナリオについても著者は簡単に枠組みを示している。よく知られているように中国での経済発展は沿岸部都市の活動によって支えられており、内陸部はまったく途上国と呼ぶべき状態である。しかし中国政府は共産主義に則り、財を分配する。これによって内陸部の非生産地域の住民の生活も保障されることになるが、多くの税金を課せられる沿岸部企業の不満は大きく、いずれ産業が衰退するであろうというものである。しかも公的資金に頼って生活する人々の数が近年大幅に増えているということでもあるそうで、まさに「正直者は馬鹿を見る」社会である。これでは経済の停滞が起こるのは時間の問題であろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・軍事・評論
感想投稿日 : 2010年12月12日
読了日 : 2010年12月7日
本棚登録日 : 2010年12月12日

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