国防のあり方と現実について、ここまでわかりやすく、具体的に記し、問題提起された本はないだろう。
航空自衛隊のトップである航空幕僚長であった著者は、「日本は侵略国家などではなく、いい国だった」という趣旨の論文を発表し、その結果幕僚長を解任され、自衛官としての職を追われることとなった。この騒動を政局に利用しようと考えた野党は、著者を国会に参考人として召致までして追求をかけ、国民に「田母神は危険人物である」という印象を植え付けた。
しかし、報道でも、国会での参考人質疑の場でも、論文の内容について、そして著者の本当に意図するところについて触れられることはなかった。
これら一連の流れを振り返って、著者は「日本国内では冷戦構造が未だ残っている」「日本には自虐史観に基づく言論の自由はあるが、愛国の精神からの言論には自由がない」と指摘する。まったく的を射た見方である。
著者は一貫して自衛官を「軍人」と呼び、自衛隊を「軍」と定義して論を進める。理想論、机上論ではなく、現場の第一線に身を置き、そのトップにまで上り詰めた人物だからこそ持てる徹底した現実論なのである。その意味で、著者の訴えるメッセージは非常に重みがある。
もちろん、歴史観や政治思想には多種多様なものがある。著者の持論が国際的に見てすべて正しいと言い切れるものではない。この問題を機に、日本国民は様々な角度から「平和」「戦争」「国際関係」等々について議論を深める必要がある。現在その土壤は、著者も指摘しているようにネットの普及によってすでにできあがりつつある。
著者はおそらく非常にスピーチの上手な方と見受けられ、メッセージが端的にまとまっているため読みやすい。ただ、強調したい部分をスピーチのように繰り返してしまっているため、本の構成としてはいささかくどく感じられた。この点は残念である。
余談だが、著者は私の高校の大先輩である。質実剛健、文武両道、開拓者精神の3つをモットーとする我が母校に、まさにこれらを体現するすばらしい先輩がいることは、誇らしいことである。
- 感想投稿日 : 2010年9月13日
- 読了日 : 2009年7月9日
- 本棚登録日 : 2010年9月13日
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