息子と狩猟に

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  • 新潮社 (2017年6月30日発売)
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 ここで俺は死ぬ。
 その一線を越えた探検家や登山家の死生観は文明の庇護下で生きる一般人のそれとは異なっていることが多い。

 先日読んだ角幡唯介の本では「男にとっては、自らの命を代償にして自然へと分け入っていかなくては生死を感じることができない」と書かれていた。
 
 命の大切さが叫ばれるが、世の中は命の軽さが目立つ事故、事件ばかりだ。
 それは、命を考えることに蓋をして、綺麗な世界しか見ていない故の結果ではないか。

 サバイバル登山家を自称する筆者は、猟銃を手に山に分け入り、食料は現地調達という方向に突き詰めた登山家だ。

 人間とケモノの命に違いはあるのか。

「バカな人間でも撃ち殺したら警察に捕まる。賢くてもケモノならいい。なんでだ?」
「本当はケモノを撃つように人間を撃つことだってできる」
「引き金を引くのは自由だ。それが自然のルール。でも警察に捕まる。それは人間のルール」

 狩猟に入った山奥で、人間の死体を処理する犯人に遭遇して、息子の首筋にはナイフが当てられている。
 対して、父親は猟銃を持っている。

 八千メートルを越え、登山の死亡率は三割を超えるK2で、登頂直後の悪天候に巻き込まれた二人。
 目の前には先日、遭難して死んだばかりの死体がある。

 どうするか。

 極限の一線を越えた本物で無いと書けない世界がある。
 たった170ページの二編で、その世界を垣間見る。

「我々が死んで、死がいは水に溶け、やがて海に入り、魚を肥やし、又人の体を作る。個人は仮の姿、ぐるぐるまわる」

 ぐるぐるまわる。文明化した人類は自然の輪からずれている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年8月26日
読了日 : 2017年8月26日
本棚登録日 : 2017年8月26日

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