この国が戦争に導かれる時: 超訳小説・日米戦争 (徳間文庫カレッジ さ 1-2)

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  • 徳間書店 (2015年7月3日発売)
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4

 1920年、大正時代に書かれた樋口麗陽著「小説 日米戦争未来図」を現代語にして解説を加えて纏められたのが本書である。

 20世紀終わり、太平洋に向かい合うアメリカと日本は国力が拮抗していた。

 日本の台頭に危機感を抱いたアメリカは情報戦により日本を孤立へ追いこもうとするが、経済的に日本を抑え込もうとするアメリカの意図は他国にとっても自明であり、国際連盟はアメリカの勝手を許さなかった。
 そしてアメリカは国際連盟を脱退したのち日本に宣戦布告し、また日本もアメリカに宣戦布告した。

 世界最強の海軍を有する日本は当然の勝利を確信しアメリカ海軍とハワイ西方で抗戦するも、アメリカの最新兵器の前に手も足も出ないままに全滅し、進軍を阻止すべく日本を出発した第二艦隊もあえなく全滅する。

 アメリカ海軍の本土上陸を前に民間からも事態を打開するため民間発明者に協力を募ると、ある老教授が20年前から新兵器を開発していることを知り、急ぎ新兵器の生産を開始する。

 また、メキシコとの同盟によりアメリカ本土への攻撃が始まり、逆にアメリカはシナ朝鮮と同盟を結び台湾・満州の土地が奪われることになり、オーストラリアもアメリカに追随することになる。

 結果、国際連盟の勧告を経て両国は停戦へと至ったが、果たしてそれで戦争が終わったのだろうか。


 という内容だった。実際には原著が書かれた20年後には大東亜戦争が勃発する。

 さらに、作者の解説により原著を分かりやすくしている。

 原著では情報戦による包囲により、アメリカが国際連盟を脱退して日本に対して宣戦布告するが、現実は逆だった。
 日本は開国して以来、情報戦に弱い。現在でも慰安婦問題では日本が悪いという中国・韓国の情報戦に対して有効に対処できているとは思えない。

 本音と建前を使い分ける割には、本気の二枚舌外交には全く対処できない。どちらかと言うと日本は性善説に立ち、義を通せば分かってくれるというローカルルールがある。

 しかし、グローバル化はローカルルールを許さないことにある。世界のルールは、いかに味方を多くつけるかという事にある。
 この点、慰安婦問題とナチスのホロコーストを結び付ける中韓のやり方はヨーロッパに対して、日本への悪印象を持たせるのに有効である。

 原著ではさらにイノベーションの必要性、反知性主義への警告、思想の無さに警鐘を鳴らしている。

 
 原著が書かれた目的は、日米戦争を回避するためだった。しかし、現実に戦争は起きた。
 歴史は繰り返すとよく言われるが、太平洋戦争前に日米戦争の勃発を予見していた原著は思索に富む。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2015年8月6日
読了日 : 2015年8月6日
本棚登録日 : 2015年8月6日

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