紙葉の家

  • ソニ-・ミュ-ジックソリュ-ションズ (2002年12月1日発売)
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感想 : 36
4

合ってるなら超ネタバレ。誰か確かめて!

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ある手紙を信じたせいでトラウマを捏造してしまった主人公ジョニー[1]が、ある怪文書を読んだせいでトラウマと手紙を疑い始める[2]。しかしトラウマをアイデンティティにしているので手紙を疑いたくないジョニーは、怪文書を肯定すれば手紙も肯定できそうだから[3]と、文書を必死で読み込んだり、文書を信じてるフリをしたり[4]、出版しようとしたり[5]、元ネタ探しの旅に出たり[6]するも失敗。そして最後にトラウマを否定する記憶を取り戻してトラウマ消滅、アイデンティティ崩壊、再構成、ハッピーエンド[7]。

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[1] 433頁、ジョニーは「私はあなたを殺そうとした」と書かれた母の手紙を信じてる。721頁に手紙の本文。

[2] 363頁、まるで怪物のように書かれてる「そいつ」は「おれを呼びつづけ、子供みたいにおれを必要として、歳の割におれに頼りきってる」とあるけどこれは母の手紙の特徴だから「そいつ」は母の手紙。

364頁、ザンパノの作品と関連する恐ろしい感覚がほのめかしているありえないこととは、母の手紙が「おれ」を作ったのではないか、母の手紙のせいで自分のものと思えない経歴(母親に殺されかけたという経歴)に乗っ取られ操られているのではないか、全てはでっち上げなんじゃないか……ということ。つまりジョニーはザンパノの作品を読んで母の告白→トラウマ→「おれ」がでっち上げなんじゃないかと疑い始めた。

[3] 433頁、証拠はないけど傷があったからジョニーは手紙を信じた。596頁、証拠はないけど傷を負った男がいるんだからネイヴィッドソン記録は(ザンパノ作品世界では)本当だと言わんばかりのオチ。「傷があるから本当だ」という同じロジックを使っているので、手紙を信じたいなら記録は真実だというオチに納得できなければならないし、納得できないなら手紙を信じるのはおかしい。手紙を信じたいジョニーはザンパノ作品のあのゆるいオチを深読みして補完しようとする。さらに、同じロジックで、ザンパノの部屋にあった謎の傷跡からザンパノ作品自体を信じなければならなくなり、ジョニーはどんどんおかしくなっていく。

[4] ジョニーは182頁で鍵をたくさん買うことを決心し、364頁で銃を買っている。ザンパノ作品に登場する怪物を恐れているように読めるが違う。363頁で怪物を閉めだしているようでいて怪物と同じ部屋に閉じこもっているとジョニーは自嘲しているが、そこで怪物扱いされてるのは母の手紙にすぎないのだから、ジョニーが恐れているのは本物の怪物ではない。ジョニーは辛い現実「手紙が疑わしい」から目を背けるために、辛い虚構「本物の怪物がいる」を信じたがっている。24頁「人はみんな自分を守るために話をこしらえてるんだ」ということ。

[5] 序文のXX頁。ザンパノの遺書には「出版してもいいが読者を虜にできないならこの本はウソでありそれは君にとって喜びだ」と書いてある。24頁で出版を断られたり「老人の言葉を読みたがるのはお前だけ」と言われて凹んでるあたり、ジョニーは「読者を虜にできたら本当」とザンパノの示した救いの道とは逆に進もうとしている。そしてジョニーが本当に証明したいのは「おれ」なので自分のことも書いている。

[6] 471頁。「現実の断片みたいなものでも見つけられればと思う」。まずジョニーはザンパノ作品の元ネタを探しにヴァージニア州へ。そして568頁でついに母の問題と向き合うことを決意。

実家跡を訪れたジョニーは573頁で「怪物に殺されそうになったときの記憶」を思い出す。ただ、次の頁から始まる願望に満ちたウソ日記に「怪物を倒した」とか「怪物はいなかった」と書かずに「母のことはもう頭に浮かんでこない」と書いているあたり、ここでも母を怪物扱いしていただけだろう。つまりジョニーが思い出したのは「母親に殺されそうになったときの記憶」だが、これは直前の572頁「自分では思い出だと思ってるものが、実はあとから聞かされた話を覚えてるだけだってことさえあるかもしれない」の通り手紙の産物。

[7] 585頁。ジョニーは真の記憶を取り戻す。手紙は愛ゆえのウソと確信。「母に殺されそうになった息子」から「母に愛されていた息子」へと生まれ変わる。辛い虚構「最悪のママが自殺した」から最も辛い現実「最愛のママが自殺した」を受け入れたジョニーは泣く。

タイトルのHouse of Leaves。leaveの語源には愛を意味するleubhがある。つまりleaves(紙葉=例の手紙)は母のleubh(愛)から生まれたとか、leubhはloveの語源でもあるのでleaveされた(捨てられた)ジョニーが記憶をさかのぼり母のleubh(愛)に気づいてloveされていた(愛されていた)ジョニーに生まれ変わったとか、色々な読み方ができる。598頁、ザンパノ作品のラストの取ってつけたようなウンチク「passionとpatienceは語源が同じ」はここに繋がる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年6月14日
読了日 : 2014年1月28日
本棚登録日 : 2014年1月28日

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