3部作、40年にも渡って書き続けられた著者の生涯を代表する作品である『苦海浄土』。読み進めながら心苦しさが募り、それでも何が書かれているのかを読まなければいけないという義務感のようなものに誘われ、ひたすらに頁を繰っていく。
水俣病に苦しむ人々を主軸に据えながらも、その射程は日本の近代化自体への批判と悲しみに向けられていく。著者自らが足しげく通った苦しむ人々自体のボイス、チッソを巡る賠償や裁判に関する文書、東京のチッソ本社での籠城の顛末など、様々なマテリアルが展開される本作は、いわゆる狭義の小説とは全く異なる。むしろ、語り口の異なる様々なマテリアルから、水俣病が提起する問題の奥深さが改めて実感される。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本文学
- 感想投稿日 : 2020年4月4日
- 読了日 : 2020年4月1日
- 本棚登録日 : 2020年3月7日
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