太平洋戦争前夜のアメリカ・イエール大学で教鞭をとる朝河貫一が、戊辰戦争を戦った二本松藩藩士の父の書き残した手記をもとに、明治維新の意味を問い直すため「維新の肖像」という小説を書くという二重構造となっている。
アメリカで反日の人々から迫害を受けながら、貫一は軍国主義に傾倒する日本を憂える。そして父の手記から、破滅への道へと邁進する日本の病根は明治維新にあると考えるに至る。
明治維新を否定的にとらえ、戊辰戦争で行った薩長の卑怯なやり方が関東軍で踏襲され、満州事変を起こしたと、貫一は考える。
書中の登場人物に、孝明天皇の崩御は長州による毒殺だとも、語らせる。
さらに、薩長同盟の立役者は坂本龍馬との説が一般的だが、これも龍馬がグラバー商会に頼まれ、イギリスの指示を伝えただけだとか。
日本が明治維新で失ったものは、と問われた書中の人物は「やさしさ、人を思いやるやさしさではないでしょうか」と、答える。
戊辰戦争は、日本の古き良き伝統と精神を守ろうとした戦いでもあったのだろうか。
「歴史の地下には、これまで生きてきた人々の声なき声が埋まっている。それを汲みあげることこそ、歴史を語るということなのだ」。
この小説を著す著者の意図でもあるだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
歴史小説
- 感想投稿日 : 2018年2月28日
- 読了日 : 2018年2月26日
- 本棚登録日 : 2018年2月28日
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