徳川幕府の将軍で、評判の悪い筆頭に挙げられるのが「犬公方」と称される五代将軍綱吉だろう。
その綱吉を主人公にした歴史長編。
心ならずも将軍となった綱吉は、己の理想を実現せんと、「武」ではなく「文」で治める世の中にと、改革を断行する。
赤穂浪士の討ち入りも、彼にしてみれば暴挙としか見做しえない。
時代は大地震や富士山の噴火が相次ぎ、綱吉は民の安寧を一身に祈る。
正室の信子は、「断じて、最悪の将軍にあらず」と断言する。彼女との仲睦まじい関係は、良き家庭人として、現代の理想の夫婦像にも匹敵。
そんな綱吉の姿勢は、「我に邪無」という言葉に集約される。
綱吉の死後、彼の政の評価について問う信子に対して、側用人の吉保が答える。
「それを判ずるには時を要します。・・・5年、10年。あるいは、100年かかるやもしれませぬ」。
視点を変えれば、人物評価も変わる。
読者にとって、従来の評価を一変する鮮烈な魅力にあふれる綱吉を、著者は生み出してくれた。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
歴史小説
- 感想投稿日 : 2020年1月21日
- 読了日 : 2020年1月18日
- 本棚登録日 : 2020年1月21日
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