勇者、辞めます (1) (角川コミックス・エース)

  • KADOKAWA (2018年10月4日発売)
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感想 : 3
5

誰よりも強くて小器用、でもひどく不器用な勇者。

意識改革からはじまる魔王軍立て直しファンタジー『勇者、辞めます ~次の職場は魔王城(略称:ゆうやめ)』のコミカライズ作品となります。
文量としてはこの一巻で原作小説一巻の約半分程の消化となるので、テンポのいい計算となるでしょうか。

原作小説既読です。その上で言わせていただきますと。
この主人公、ここまで可愛げのないやつだったか……? 思えば、可愛げのなさは生まれた時から今の今まで変わってはいなかったのでしょうが、初見の読者はもちろん、彼の本音を知っている自分ですらそう感じるとは驚きでした。事実、イラッ☆としたセリフも散見されましたし。

魔王を打倒したものの、脅威が去った後は守るべき人々から裏切られ迫害に遭う勇者。
テンプレな英雄譚のカウンターが流布され過ぎてまたテンプレになったその興りは定かではありませんが、少なくともドラクエではなさそうです。

よし、勝った! このコミカライズは成功です!

他の方の感想を引き合いに出すのはあまり行儀の良い行いではないかもしれませんが、いやー、思ったより皆さま騙されてますねー。作者と(ついでに)既読者の思惑通りです。
結論を言いますと、性格の悪い最強主人公のガワを被ってますけど、この主人公「勇者レオ」と『ゆうやめ』ほど、最強であることと向き合った物語はそうないと断じます。

ここまで勇者の○○と世界の○○がダイレクトに出されているのに意外と気づけないものだなー。
あえて分析してみますと、章題ワンフレーズ、挿絵一枚で劇的さを演出できる小説とたくさんの絵とコマの中で動きを見せないといけない漫画とでは、メディアの性格が違うのかもしれませんねー。

正直、中盤~終盤にかけての大どんでん返しを一発でわかりかねないレベルでの絵情報で小出しにしてこられたことに冷や冷やしていました。

けれど、今なら翻って太鼓判を押せます。
思ったより漫画って媒体では一ページに隠された裏の意図を読み切れず、伏線として機能するのだと。
そして、漫画だからこそのコマ運びが、次巻の驚きと転回をサポートするのだと。

そんなわけで、この巻では魔王傘下の四天王のうち女性ふたりとの無防備だったり、天真爛漫だったりするワンショットが読者の目を惹きつけます。ほんわか。
キャリアウーマンとしての顔が妖艶なサキュバスとして種族特性を隠している魔将軍シュティーナの見え隠れする隙が男心をくすぐります。
ちびっこゆえの圧倒的行動力と素直にプリミティブな好意を剛速球で投げつけてくる獣将軍リリは主人公をも振り回す妹力を発揮してきます。強いです。

デスクワークから鋭い視線を向けるシュティーナにしても一コマ一コマに可愛さを乗せつつハイスピードで話をかっ飛ばすリリにしても、素晴らしい漫画ってのはこうですよねって納得をくれるのですよ。
というか、漫画的要素で語ると割り切ってしまうならリリ主役回の四話が素晴らしすぎて確実に今後の怒涛の展開に対して信が置けたのです。

あと、ついでに。この『ゆうやめ』、ビジネス小説的な意味合いも多少は持たせていますが、それが側面であって本筋でないことにご注意ください。
残る四天王、そして勇者、それに立ち向かう魔王の物語へとラストが結集されていく鮮やかさをご覧くださいませ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Fantasy
感想投稿日 : 2018年12月2日
読了日 : 2018年11月7日
本棚登録日 : 2018年11月7日

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