怪物メイドの華麗なるお仕事 (1) (角川コミックス・エース)

著者 :
  • KADOKAWA (2020年9月10日発売)
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本棚登録 : 92
感想 : 2
5

両手にワゴンを、二又にはランタンを、夜の世界を照らす深闇のメイド服。

幻獣、妖精、悪魔に黒猫、それからもっと。ちょっと古びたオカルティズムとテクノロジー。
ここは異国。西洋にある怪奇の世界、ちょっぴり退廃的なゴシックの世界。人の世界とは趣を異とする、そんな非日常を日常となす夜の世界を照らし出すのはランタン。

と、言うわけで「田辺ゆがた」先生が『野々山女學院蟲組の秘密』に続き世に送り出される新作は、上品で深くほがらかでほんのりと光を挟み、闇の世界を快刀乱麻に駆け巡る怪物メイドさんたちの物語です。
時に。前作においては、赤と黒が織り成すコントラストが目を引きました。加えて白い肌の艶を際立てるかのように、心情の影を落とす墨黒の蟲の影が目立ちましたね。
昭和レトロの原色の世界と言うべき趣か、色の切り替え、しっかりとした輪郭が特色と言えるでしょう。

ひるがえりまして今回は夜を舞台にすることが多い都合上、光源のありかが明確です。
黒一色なんて野暮な言い方はしません。内側に様々な色の印象を宿すのが黒の色、深みを喚起させる闇の色を照らし出す光の妙技とでもいいましょうか。今回はフリルに彩られたシルエットが輪郭線をぼやかします。
色白の肌は今回も共通し、全体を見渡せば似た印象、地続きの作家性を感じる一方でがらりと世界観を塗り替えて参られました。

物語を照らし出す「光」を確保するにあたってそれ専用の設定が用意されていたりする辺り、コンセプトは明快かもしれませんね。前作の夏に代わって冬の雰囲気も大いに漂うのですが、舞台がなんでもありそうな西洋っぽい魔界ということもあって、現状では舞台設定に縛られ過ぎることもないなって感じです。まぁそれはそれと。

そんなわけで、タイトルが既に半ば以上を説明してくださっているので補足程度ではありますが、本作のあらすじを紹介していくことにいたしましょう。

まだまだ未熟だけど敏捷性と感知能力は群を抜く主人公、猫又の「スミレ」。
怪力がウリで大雑把、だけど人懐っこくて警戒心とは無縁にしてくれる人造人間の「アイビー」。
耐久性とメイドとしての実力は随一、デキるお姉さん役としてふたりを導く、アンデッドの「ローズ」。
それと。見た目は子どもで頭脳は大人、でもスイーツにはこだわる彼女達の上司、王兄殿下の「社長様」。

メイドとしても魔界の住人としてもまだまだ新参なスミレを物語の中心に据えつつ、物語は進みます。
表向きは出張家政婦サービスとして、いろんな職に就いている多種多様な魔界の住人達の下で臨時に働きながら、「あるもの」を取り返すためにスリーマンセルの潜入調査を繰り返していきます。
構成としては読者がどこからでも入りやすい、話を進めるのも容易な単話完結路線といったところですね。

それと各話のターゲットは、本来社長の所有物である「あるもの」を悪用してるんですが、その数が明言されていないというのもポイントだと思います。
話のゴール地点に向けて、わき道の逸れてもいいエピソードの数とにらめっこしながら話の配分ができるという意味で信頼感が持てます。前作が同じく「集める」というコンセプトだっただけになおさらですね。

基本路線を提示する第一話に続いて三人娘たちの特性を活かした話が順繰りやって来るので、第一巻からして全員に活躍の場が巡ってきてさっそく彼女たちのことが好きになれました。
それでいて意外性も結構用意されています。既定路線に乗せつつもほのぼのとした話がやって来る三話などは一話、二話の後だからこその話と言えるかもしれません。

冒頭でも挙げたように、本作は海の向こうの百鬼夜行、ハロウィンの夜の登場人物が主役の世界ということもあって結構お馴染みだったりそうでなかったりする怪物・幻獣が目白押しです。
つまるところは、スミレの種族が「猫又」、女中ではなくメイドさんということもあって生まれる和洋折衷要素をはじめに、元ネタの属性を拾いつつ、何らかの職を営んでいるという発想は見逃せませんね。
もちろん、ストレートに剛速球を投げてくる発想も素敵なお約束でよかったと念を押させていただきますが。

そんなわけで、この作品を語るうえでまず欠かせないのがやはり主人公のスミレでしょう。
見た目はいわゆる猫耳しっぽの猫娘、もちろん瞳孔だって猫の瞳なので時間を図るに便利、いやいやそれは余談。
だけどスミレはひたむきな頑張り屋さんなんです、恩には報い献身する女の子なんです。
眼光は鋭いようでいて、人は良くやわらかな印象を万人が抱け、表情もコロコロ変わる。応援したくなる子です。

ところで猫と言えば自由奔放、気まま勝手なイメージがあることも確かです。
一方、本邦の化け猫には飼い主に尽くし、わが身を投げ打つことも厭わない忠義の生き物でもあったことを示すエピソードが江戸時代の伝承にもあったりします。
私が知る限りですとその程度ですが、その辺をご存じな方だとさらに納得が増すかもしれません。

で、スミレ。
先に申し上げた通りに未熟な部分もあるんですが、元が猫なだけに身体能力は高く猫特有の弱点を差し引いても荒事要員としては相当に優秀だったりします。体幹がしっかりしてるので、姿勢が崩れません。行動も素早いです。
切り込み役の主人公としてアクションと活劇の華を担ってくれているので、見せ場は主人公のスミレが持って行っても納得しか生まれませんでした。

スミレは素直に上の人を慕ってくれるので好感が持てますし、縦と横のつながりの円満さに繋がっています。
アクションでいえば、スカートをひるがえし、さらけ出されたおみ足の美しさも見逃せません。
スミレのここ一番の武器に「大鎌」というナイスなセレクトをしてくださっているのも、本作における決めページの鮮やかさにもつながっていると思います。様式美にしてロマンですよね、女の子と巨大武器。

それでは現時点での総評を申し上げておきます。
ひとまずは、話の興りにして基本路線に続き、主要メンバーの人となりを大体説明し切った申し分なしの第一巻だったと思います。

現時点では水面下で動いているスミレたち三人娘が今度どう動くのか? そして社長こと王兄殿下の暗躍を前に現魔王はどう動くか?
その辺の心配をができるほど、私はこの作品と話づくりに不安に感じることはありませんでした。
スミレはお風呂が苦手で顔がなかなか洗えそうにないので、すなわち猫は顔を洗わない。よって、この作品の先行きもきっと晴れなのかもしれませんね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Fantasy
感想投稿日 : 2020年9月19日
読了日 : 2020年9月17日
本棚登録日 : 2020年9月12日

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