たゆたえども沈まず

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本棚登録 : 2236
レビュー : 265
著者 :
happy_readingさん 原田マハ   読み終わった 

2018年本屋大賞 4位の作品です。

たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)――これは16世紀から存在する、パリ市の紋章にある標語だ。帆いっぱいに風をはらんだ帆船とともに刻まれているラテン語は、「どんなに強い風が吹いても、揺れるだけで沈みはしない」ことを意味する。
パリは「たゆたえども沈まず」(Fluctuat nec mergitur)
ハフポスト 2015.11.18 より引用


波乱の人生を生きた 画家・ゴッホとその弟テオ
日本人画商の林忠正と部下の加納重吉(架空の人物)、4人の物語です。
ネタバレあります、ご注意ください。
ゴッホといえば ひまわりかアルルの跳ね橋か星月夜。
ひまわりは
安田生命が53億円と言う破格で競り落としたニュースで話題になりました。
絵の具を厚く塗り重ねたような独特の筆致が印象的な絵画とともに
自分で自分の耳を切り落とすという奇行でも有名な画家の生き様は
読んでいて苦しくもあり 切なくもあり。
本の帯には
「画家・ゴッホを世界に認めさせるために 強くなってください」
林忠正の言葉です。
明治の初期に 渡仏し フランス人と渡り合って画商として成功した忠正は
東洋人として蔑む人たちと堂々渡り合って 日本美術をヨーロッパに広め
浮世絵の魅力を伝えたのでした。
私が好きな画家はほとんどが印象派の画家なのですが
当時 印象派はフランスのアカデミー派から絵とも認められない扱いを受けていたそうです。
フィンセント・ファン・ゴッホ、フィンセントの4歳下の弟テオは
兄に尽くし 兄に振り回された半生でした。
フィンセントは破滅型の人生を歩んでいて 弟テオとは正反対の生き方でしたが
兄が大好きなテオは 兄の絵の才能を買い、
いつか 画家として成功して欲しい、まっとうな人生を歩んで欲しい、
その一念で 画材代や お金を工面しては送っていました。
それでも すべて安酒に変えてしまうフィンセント。
それでも時として 素晴らしい絵を描く兄に
失望、落胆、淡い期待、作品を見たときの喜び と
糾える縄のように 目まぐるしく 心の明暗が入れ替わっていきます。
フィンセントは傷つきやすく 依存心が強く 自己中心的で、側にいると
周りの人を疲弊させてしまうような人物。
それでも 彼の絵には 不思議な温かさや生の息吹が感じられ、
それに惹きつけられて 林も 加納もフィンセントとテオ兄弟を支え 見守り
いつか 素晴らしい絵が世の中の人に認められるように と背中を押したのでした。
日本の美術が当時のヨーロッパで人気を博し
浮世絵が 時々海外から里帰りするニュースを不思議に思っていたのですが
当時フランスやイギリスで大人気だった浮世絵を日本から持ち込み
その魅力を説いたのが この林忠正だったのですね。
鎖国が解かれた日本の文化に初めて触れた パリの人たちは
浮世絵の魅力に高値を出して購入したようです。
そして 浮世絵は当時の印象派の画家たちに多大なる影響を与え
フィンセント・ファン・ゴッホが描いた「タンギー爺さん」の絵の背景にも
たくさんの浮世絵が並んでいます。
フランス印象派に影響を与えた浮世絵、それを持ち込んだ日本人・林忠正
ゴッホを通じて こんな所で繋がっていたとは…
読み終わって 本を閉じたら 星月夜の装丁。
何か胸に迫るものがありました。
ゴッホの作品とは…ただ美しいだけじゃない
魂の叫びのようなものが 込められているからかもしれません。


パリ・セーヌ川にかかる橋で絵を描いていた時に警察に追い払われ
あこがれのパリから拒絶されたと感じた時から
自分を取り巻く世界から疎外感を感じていたのでしょう。
生きづらさを抱えながらの半生でした。
問題行動で迷惑をかけてばかりとわかっていても どうすることも出来ない彼は
描くことしかできなかったのです。
周りの人々のために死を選んだフィンセント。

フィンセント・ファン・ゴッホの孤独を思うと胸が押しつぶされそうな気分になります。

レビュー投稿日
2018年8月15日
読了日
2018年8月15日
本棚登録日
2018年7月29日
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