ある女性小説家の人生を通し、小説家のエゴと現実の相克が語られる。作品のトーンは暗く重い。
主人公の頭の中にあった秩序と空想の心地よい世界は、その完成を見ることなく、猥雑な現実に冒されてしまう。しかし、主人公の空想こそが現実を冒そうとする我儘な欲望を秘めていることが露呈し、そこに悲劇が生じる。これが物語の発端である。
主人公の空想が現実に生きる人間の生をかき回し、歪めてしまった。それでも、身勝手な欲望を抱えながら彼女は小説を書く。老年の彼女の、小説家というものは身勝手なものだという述懐ほど小説家(≒近代的人間)の業を照らし出すものはないだろう。
本書は第一級の文学であり、同時にメタ文学なのだ。
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- 感想投稿日 : 2014年6月4日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2014年6月4日
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