市民社会政策論―3・11後の政府・NPO・ボランティアを考えるために―

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  • 明石書店 (2011年8月20日発売)
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東日本大震災で特に顕著に顕れた問題点として、日本のNPOが寄付とボランティア(=市民参加)に消極的なことを指摘し、その背景として、日本版インパクトに代表される、NPOと行政との連携やソーシャルビジネスの振興に傾斜する政府のNPO政策があると述べている。一方で、NPOの本質は、市民が社会問題の解決に参加するための回路であるところにあると指摘し、もっと日本のNPOは市民参加に目を向けるべきと主張している。そのうえで、理想的なNPOのあり方として、「市民性」「社会変革性」「組織安定性」を兼ね備えた「エクセレントNPO」という概念を提示し、33の評価基準も示している。
本書は、近年の政府のNPO施策のレビューとして、また、特に市民参加の面からのNPOの現状と課題を知るうえで有益であり、「エクセレントNPO]という概念も、NPOを評価するうえでの一つの理念形として意味があると考えられる。
しかし、著者の主張には納得しかねる点も多かった。まず、すべてのNPOに市民参加の要素は必須であるのかという点だ。行政が市民に開かれていることは必要であると思うが、私的組織であるNPOが一般市民に開かれている必要は必ずしないと思う。それぞれのNPOは、多様な課題に対し、多様な手法で取り組んでいるものであり、寄付やボランティアにそぐわないNPOも少なくないのではないか。特に、プロフェッショナルとして専門性を高め、社会問題に取り組むようなNPOの場合、寄付はともかく、ボランティアの参加は専門性の低下につながり、活動に支障をきたす可能性が高いであろう。市民参加を重視するNPOがあってももちろんよいと思うが、すべてのNPOが市民参加の要素を備えるべきであるとは思えない。
次に、近年の政府の政策は、行政委託やソーシャルビジネスばかり重視して、寄付やボランティアを疎外していると主張しているが、本当にそうなのかという点である。行政委託やソーシャルビジネスを重視した政策が進められていることは確かだと思うが、寄付税制が大きなテーマになっているように、それらの政策は寄付やボランティアを否定するものではないと思う。著者は、寄付やボランティアに思い入れが強いあまり、それ以外の要素を重視する政策を頭から否定し、勝手に敵を作り上げているような印象をもった。NPOのあり方はいろいろなのであるから、行政委託やソーシャルビジネスを推進する政策にも必要性はあるはずだし、それは寄付やボタンティアと相反するものではないはずだ(著者も、事業収益や寄付等による多様な収入源を持つ方がNPOの事業継続性は高いと主張している)。
そして、NPOの市民性を高めることが必要だとする一方、市民のボランタリズムや社会貢献活動について政府は何もしないほうがよいと主張しており、結局、どのようにしてNPOの市民性を高めるのかが不明確な点だ。もちろん、自発的に、個々のNPOが市民参加への意識を高め、市民がNPOを通した社会参加を積極的に行うようになればそれが一番よいのだが、寄付やボランティアの文化が根付いていない現状を鑑みれば、個々のNPOや市民の意識任せで、著者が理想とするようなNPOと市民のあり方が実現できるとはとても思えない。もし本気でNPOの市民性を高めようとするのならば、やはり、何らかの政策的対応が求められるのではないだろうか。

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感想投稿日 : 2014年12月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2014年12月27日

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