朝日新聞の正義(小学館文庫) (小学館文庫 R い- 1-13)

  • 小学館 (1999年11月5日発売)
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感想 : 12
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 朝日新聞の正義? 本屋の平積み本のタイトルが目に飛び込んできた。マスコミの堕落腐敗有害性が近年とくにネットを中心に指摘されているが、そのこともあり手にとって見ることにした。

 本書は最初から最後まで小林氏と井沢氏の対談形式で纏められている。主な内容は題名の通り、朝日新聞を中心としたメディアに関する捏造・すり替え・取材された方々の発言の悪意の改ざん(部分的に取り上げることで発言意図が改変されて読み取れるようにする)・データの恣意的な引用(読者が期待したとおりの誤解をすることを予定したような構成等)・印象操作、等等、例を挙げればきりが無いが様々な指摘が実例(おもに体験)を引用して対談中になされている。

 また本書は問題点の指摘・列挙だけに留まらずジャーナリズム一般、日本人一般の話にも及ぶ内容となっている。以下に2,3とくに目に付いた事項の概略を述べたい。

 特に目についた指摘の一つに、朝日の主張する「護憲」の内容に関してのものがある。井沢氏によれば、「護憲」の内実は憲法9条と憲法前文の「平和主義」の護持であるという。もし「護憲」を文字通り受け取れば憲法1条で天皇の位置づけが明記されており、相応の敬意を払うことが「護憲」に該当する態度である。しかし、共産党が参議院開会式(天皇陛下が出席)には欠席することを言わなければおかしいが、それをしない(都合の悪いことは無視する)態度を決め込んでると指摘している。

 また、井沢氏は平和論を唱える人がいるから「部落差別」がなくならないと指摘する。この観点の指摘は初めて見たので大変驚いたが、かなりはしょった説明ではあったが、納得のいくものであった。平和論=部落差別の根拠として述べられている内容を誤解を恐れず超簡単にいうと、日本人は昔から”穢れ”を嫌うという信仰がある。という指摘に始まり、この穢れというのは「血の穢れ」「死の穢れ」であり、これが何を意味するかというと、軍事、警察、皮革を作る業者、死体を扱う業者等への差別に繋がった事。平安時代中期に常備軍が廃止された歴史があるが、軍がいなくなれば当然治安の悪化が発生したのであるが、その結果「けがらわしい」仕事(警察業務や死刑執行等必要な仕事)を貴族からみた下の人々(部落差別の起源)にやらせて、自分たちは手を汚さないですませた経緯があるのである。これは後に自衛集団としての武士が各地に登場する遠因となった。
 
 さらに、井沢氏の指摘になるが「戦前は空想的軍国主義」「戦後は空想的平和主義」どちらも本質的に似ていることを指摘している。国家の意思決定の観点から、戦前は軍部の独走、戦後は各省庁の勝手な行動が象徴的に指摘されている。また紙面で軍国・平和人権それぞれを戦前・戦後において常に主導してきたのが朝日新聞をはじめとした大手メディアなのも皮肉だろうか。

 ジャーナリストはイデオロギー以前に「事実」を国民に伝えるべきことを井沢氏は本誌で主張されているが、朝日新聞は自らが考える「正義」のためには国民を善導するためには脚色捏造も許されると理解しているようだということを再三指摘している。これでは戦前の大本営発表の二の舞である。「事実」を正確に国民に伝えたうえで国民が判断することこそが一番大切であることを指摘している。

 本書の内容は一般読者の視点からみると(特に批判的に見る読者)、どこまでが事実に即した内容になっているのか?作り話混ぜてるんじゃないか?と考えることは可能であろうし、私もどこまでが真実か計りようがない(調査して裏を取ろうという読者はまずいないだろう)。しかし、内容は読者一人一人が多方面からの情報や資料を総合して信用に値する内容かどうか判断していけばいいことであろう。

 本書は10年前のものであるが、10年前の時点ですでにメディアのいかがわしさをこれだけ指摘していたのかと驚くばかりであった。495円とお手軽な価格でもあるので、メディアの真相に興味のある方は、その入門知識導入の観点からもお手頃であると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マスコミ
感想投稿日 : 2009年11月17日
読了日 : 2009年11月17日
本棚登録日 : 2009年11月17日

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