シルトの岸辺 (岩波文庫)

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本棚登録 : 87
レビュー : 8
制作 : 安藤 元雄 
文箱さん フランス - 小説   読み終わった 

原著は1951年刊。ヴェネツィアを思わせる落日の共和国オルセンナの滅びゆく宿命の物語。優雅で洗練された文体と、格調高いダイナミズムが素晴らしい。
処女作『アルゴールの城にて』に比べると文章の技巧性が抑えられ、より流麗になったところに筋立てのスケールと重みが加わる。読み手は前半にはグラック一流のきらびやかな書体に酔いしれ、後半になると一気に動き出す物語に押し流されていく。
何より驚かされるのは主題の批判精神。作家は現実の歴史になぞらえて読まれることを嫌ったというが、老いて盲いてゆくオルセンナの描写は今日の世界ないし日本にそのまま当てはめられるようで背筋が凍った。作家が意図して書かなくとも、表現を研ぎ澄ましていった末にこれほどの普遍性に達したということか。
朽ちていく町マレンマや首都オルセンナの虚飾と崩壊、シルト沿岸の城塞や廃墟など、あらゆる地がそれぞれ異なる色調で幻想的に描かれる。その作品世界は壮麗でありながら嫋やかで、しかも鋭い切っ先を併せ持つ。類まれな美しさはまさに作家の代表作だと読み終えて強く感じた。

レビュー投稿日
2014年6月16日
読了日
2014年6月15日
本棚登録日
2014年6月15日
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