皆の運命を変えたタリス邸の事件から時は流れ、舞台は1940年戦時下のダンケルク、そしてロンドンへと移る。第一部の技巧を凝らした文体は影を潜め、ロビーとブライオニーが、全ヨーロッパが直面した戦禍が重厚な筆致で語られる。そして最後に明かされる、この小説の仕掛け。
前半と後半のトーンの落差やヴァネッサ・レッドグレーヴの登場場面の違和感など、映画の不満点が原作を読んで全て解消された。本書の白眉は構成そのもの、小説による贖罪という主題そのものだろう。第一部の夏の一日と第二部・第三部の戦争物語の間隙が埋まることはない。しかしそれが終章で突如一つの枠組みにすっぽり収められる。違和感までもが意図されたもので、読み手は作家の罠にまんまとはまり嘆息するのみ。
ただこの小説の真の素晴らしさは、第二部のダンケルクへの行軍と第三部のブライオニーの病院勤務の、静かではあるが生々しく迫ってくる描写にあると思っている。これがあるからこそ第一部の嫌らしいまでの美しさが意味を成す。その逆も然り。あまりに重たくて、トリッキーな構造の中では突出してしまいそうにも感じる。しかしそれすらも作家の仕掛けのうちなのだろう。
作家の腕前にうなりつつ、やっぱり手放しで好きとは言えない。ただ第二部・第三部は、そんなへそまがりでもひれ伏さずにいられないほどの圧倒的な語りだった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
イギリス - 小説
- 感想投稿日 : 2014年11月11日
- 読了日 : 2014年11月11日
- 本棚登録日 : 2014年11月10日
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