神様 2011

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レビュー : 154
著者 :
じゅんさん  未設定  読み終わった 

川上さんのデビュー作「神様」は、くまにさそわれて散歩に出るという不思議で温かくて、なんか哀しくもなる小さな日常のお話だったけれど、それを今年のあの地震&原発事故を踏まえて少しずつ書き変えたら…。 オリジナルの「神様」で、主人公は三つ隣の305号室に引越してきた くまに誘われて散歩に出る。くまは、たぶん少しシャイながら大人の心を持つ、主人公の見方では、昔気質だったり大時代的だったりする くまなのが、ほんのりと可笑しく、でも、くまはくまなのだから、どこかで全ては通じ合ってない、と思わせるところがまた好きだった。
同じ人間同士だってとことんわかりあえるわけではない、ということ、でも、人間とくまという間柄で始めから何でもわかりあえる存在になれるはずがない、という前提を基に一緒に時間を過ごしてみると、あれこれ気持ちが通い合うところがとても嬉しく感じられ、うん、それでいいじゃないの、人間だってさ、なんて優しい気持ちにもなれたような気がしたり。

そして、思うことは、タイトルの「神様」ってなんだろう、ということ。
小さなハイキングの後に、くまが

「今日はほんとうに楽しかったです。遠くへ旅行して帰ってきたような気持ちです。熊の神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように」と言ってくれ、

主人公は、眠る前に日記を書きながら

熊の神とはどのようなものか、想像してみたが、検討がつかなかった。悪くない一日だった。

と思うところでこのお話は終わるのだけど、川上さんはこのタイトルで何が言いたかったのだろう、と、これは誰でも思うことだろうけど。

私は、特定の宗教は持たない、いわゆる一般的な日本人だけれど、神様という存在はどこかしらに感じているように思う。神様=おてんとうさま、と言ってもいいかもしれないけど、(川上さんも後書きに書いてらした。)どこか人間たちの知恵の及ばないところに大きな存在があり、普段は優しく見守ってくれているのではないか、なんとか道を踏み外さないように、言い方は変だけど味方(*^_^*)してくれているのではないか、とも。

だから、熊の神様もきっとそんな存在で、うん、目には見えないけど、私たちは守られているんですよ、人間だけでなく、熊にもその他の生き物にも、いや、生き物以外にも神様っているんじゃないの? という嬉しさをも含むお話だったのでは、なんてね。

そして、今回の「神様2011」は、一行目から“防護服”が出てくるという、放射能が蔓延してしまった後の地が舞台になっている。でも本文はほとんどオリジナルと変わらず、だからこそ、ほんの少し折々に差しこまれる異変の描写がとても怖ろしい。
主人公とくまは、「あのこと」呼ばれる3月11日の前と同じように、ハイキングをし、話し、昼寝をし、抱擁を交わしあう。でも、たぶん、人の心も風景も「あのこと」以前とは全然違ったものになっているのが静かな怒りを持って書かれているのがよくわかる。

川上さんは、声高に何かを非難してはおらず、ただ、当たり前の生活が奪われたこと、そして、その異常事態である今が既に日常になっている悲しみを描かれている。

私自身、「あのこと」の後の政府や東電の対応には、腕をブルンブルンと振り回したいほど怒りを覚えているけれど、あの事故そのものについては、人智を越えた災厄という認識を持っている。事故が起こってから、後付けで、あれこれの不備や心得違いがあったことがわかっても、今年の3月11日まではそれでよし、としていたじゃん、私だって、あなただって、と思うから。
それはもちろん、いくら後悔しても後悔しきれないことで、誰に対しても、御免なさい、御免なさいと言いたくなるのだけど・・・。

こんな小さなお話が今、大きな評判となっており、売り切れの書店も多々ある、という情報に、なんていうか、まだ日本も捨てたもんじゃないんじゃない?と思えるところが嬉しい。
それこそ、神様っているんじゃないか、何もしてくれなくていいからいてほしい、と思える、とまで言ったら言い過ぎかなぁ。

レビュー投稿日
2011年10月19日
読了日
2011年10月19日
本棚登録日
2011年10月19日
5
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