ミーナの行進

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本棚登録 : 1737
レビュー : 361
著者 :
制作 : 寺田 順三 
じゅんさん  未設定  読み終わった 

主人公・朋子は家庭の事情で、ミュンヘンオリンピックの年の一年間、芦屋の裕福な叔母の家で過ごす。そこには一歳年下の従姉妹、ミーナがいた。 小学校の卒業式を終えた翌日に1人で新幹線に乗り、岡山から神戸までやってきた朋子。父を病気で亡くし、残された母と娘1人だったのだが、これからの生活のため、母が一年間だけ東京に洋裁の修行に行くことを決意したゆえだった。

何年かぶりの再読です。
初読時には、ゆったりした文体の中にどこか哀しみが感じられ、何か悪いことが起きるのではないか、(従姉妹が意地悪だったら? 喘息に苦しむミーナが儚くなってしまうのでは? 火事で家が焼けてしまうのでは? 海水浴に行って叔父さんと従兄弟が溺れてしまうのでは?などなど)と、先周りをして心配してしまい、終始、ハラハラしていたような気がするのですが、今回は、突然、とんでもないお金持ちの家に住まいすることになった少女の素直な気持ちにしっくりと寄りそいながら楽しんで読むことができました。

ミーナは、ドイツ人のお祖母様を持つ、美しいクォーターの女の子。血管ばかりか、その中を流れる血液さえ見えるような白い肌、と朋子によって描写される佇まい、そして、病弱なゆえに小学校までの道のりをコピトカバのポチ子に乗って行くという、童話の世界のような、また、別の見方をすれば、人と違うことをしても気に病まないという気持ちの強さが深く心に残る女の子です。

朋子とミーナはとても良い友だちになり、特に、朋子は年下の彼女から大きな影響を受けます。
マッチ箱集めに情熱を傾けるミーナ(そのマッチ箱を持ってきてくれる“フレッシー”の配達員の若者との淡いエピソードも好きでした。)が、その絵柄に合わせて紡ぎだす短いお話の数々。森田・猫田・大古・嶋岡らがいた時代の男子バレーボールに熱中する様も、同じ時代を生き、同じ試合に声援を送った身として、不思議なくらいにあのころの匂いや色が蘇る思いでした。

朋子から見るミーナの家族はみな好ましく、素敵な人たちではあるのですが、優しくハンサムな叔父さんは別に家庭を持っているらしく、叔母さんは小説でも新聞でもチラシでも、と印刷されたものの校正に一日の多くの時間を費やしているのが哀しい・・。そして、そんな中でも(たぶん)意識して穏やかに暮らしてくる家族を、途中からの同居人として心の中でまっとうな感情を吐露している朋子。


このお話は、一年間の同居から三十年後に朋子から語られているという趣向のため、時に大人の視点が入り、その整理された気持ちがいい具合に読者に落ち着きをもたらしています。

一枚の美しい絵のような家族にも、もちろん変化は訪れなければならない。人と人とのつながりや状況は変わっていくものなのだなぁ、と感じさせられつつ、それは悪いものではないのですよ、と優しく教えられたようなお話で、うん、やっぱり小川洋子さん、好きだなぁ、と改めて思わされました。(*^_^*)

レビュー投稿日
2012年1月23日
読了日
2012年1月23日
本棚登録日
2012年1月23日
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