東京の幽霊事件 封印された裏歴史

  • KADOKAWA (2019年6月28日発売)
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「幽霊が出る」 怪異を囁かれる東京都内のあらゆる場所、その過去には必ず原因となる事件や事故があり、さらに時代を遡れば、恨みや悲しみが染み込んだ土地の因縁がある。時とともに事件や事故に関する人々の記憶が風化し、かすかな断片だけが残る。それを核にして、生きている人間のもつ複雑な感情や、社会背景が絡み合って「幽霊」となってゆく――。
そのロジックを、丹念な取材と豊富な史料をもとに解き明かしてゆくノンフィクション。

たとえば佐々木譲の『警官の血』で物語の大きな転換点として描写され、重要な伏線にもなっていた昭和32年に谷中霊園内の五重塔が不審火で全焼した事件。
原因は一般に男女の心中によるものとされている。私自身、谷中近くにあるカフェの奥さんからそう聞いたことがあるが、実は第三の人物による殺人放火死体遺棄事件という一説があるそうだ。心中なら事件は二人で完結する。しかし心中でないなら、事件は犯人が未だ明らかにされないままの凶悪な未解決事件に変貌する。事件が他人事でなくなってしまう恐ろしさにゾッとする第一章「火炎心中異聞」。
さらに、秋葉原にかつてあった万世橋駅。現在では「マーチエキュート神田万世橋」という商業施設に生まれ変わっているかつての駅のほとりにあった、いつのまにか人々の記憶から消えた幽霊屋敷を回顧する第6章「橋のほとりの幽霊屋敷」。江戸時代に景勝地として有名だったという神田御玉ヶ池の、いくつもの時代を経て幾人もの“お玉”が登場し、伝説が作られてゆく遠大な過程を推理する第4章「玉女幻想」。ほかに日暮里や天王洲、新宿やあとがきの国分寺まで、そこに「幽霊」が出る理由を蒐集している。

とどのつまりは「生きている人間が一番怖い」。不思議なことに、この本の中に取り上げられている街に、無性に出かけて行ってみたくなる。読んだ後にはきっと街の印象が変わって見える一冊。

KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。
https://kadobun.jp/reviews/3r3ri1cf9xyc.html

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 作家名:か行(その他)
感想投稿日 : 2019年8月21日
本棚登録日 : 2019年8月22日

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