「愛を打ち明けるとき、日本人は手のひらを胸にではなく、胃のあたりに当てるという。日本人は魂が腹に宿っていると信じているのだ。だからこそ、ハラキリをして魂を外に解き放ってやるのだろう。自分の形而上的な本質を確かめるための、なんと苦しくも痛ましい方法だろうか?」
……切腹ってそんな感じでしたっけ?
それはまあさて置いて、白人は高尚なことを話すとき、胸ポケットのあたりをぽんぽんと叩くそうだ。しかし、魂があるのはそこではない。
魂があるのは、そこからボタン三つ分ほど下らしい。
1977年にアメリカに亡命したふたりのロシア人文芸評論家、ピョートル・ワイリとアレクサンドル・ゲニスが、食道楽の見地から見た世界とは。
それは誰も知らない、美味しいロシア。
東西冷戦時の西側、とくにアメリカのジャンクフードやダイエット志向、ビタミン至上主義を揶揄しつつ、罵倒しつつ、故郷の多彩な料理を懐かしみ、本場のロシア料理の(大雑把な)レシピを紹介し、食と人生の哲学をフットワーク軽く滔々と語る。
曰く、「しかし、人生とはそもそも有害なものなのだ――なにしろ、人生はいつでも死に通じているのだから。でも、シャルロートカを食べたら、この避けがたい前途ももうそんなに恐い気はしない。」
曰く、「本物のフランス風サラダは、笑うなかれ、まさにレタスだけでできている。新鮮な青々とした菜っぱ何枚かにソースをかけたものが、それ。この食べ物の軽薄さはまさに噴飯ものであり、ロシア語ではそんなものをサラダと呼ぶような考え方はないのだ。」
寒い国から来た男たちの、熱いロシア魂とロシア(料理)愛を感じる一冊。
胃、それこそが人間の不滅の魂。ちゃんと生きるためには、ちゃんと食べなければならない――。
- 感想投稿日 : 2018年1月21日
- 本棚登録日 : 2018年1月21日
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