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イザベラ・バード 旅に生きた英国婦人 (講談社学術文庫)
- パット・バー
- 講談社 / 2013年10月11日発売
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(2020/6/24読了)
19世紀後半に地球を2周か3周した女性旅行家・紀行作家の伝記。
この時代に女性が一人で世界旅行ができたというのがそもそもの驚きだけど、そういう人はほかにも結構いたみたいだ(当然、各地の領事とコネがあるとか特定の身分があってこそ)。
梅雨や蚊などに悩まされていい印象はないみたいだけど、日本にも来訪している。
印象的だったくだり:
「秋田の日雇い人夫は粗野ではあるが、東京の人夫と同様に沈着で礼儀正しく、白沢の少女は日光の少女と同じく落ちついて、子供たちは皆同じ玩具で同じ遊びをし、同一年齢なら年相応の段階を経て成長していくのです。
これはことごとく社会秩序の厳しい足枷に縛りつけられているということであり・・・それ以上に良いところがあると私は思っているので、西洋の慣習やマナーを真似ることによって日本の公序良俗が破られていくのを見ると心から悲しくなってきます。」
北海道に渡ってアイヌとも知遇を得ており、
「彼らは体型がほとんど似ていない日本人から、原始的であまねく広まっている侮りを受けているが、見知らぬ人に親切で愛想がよく・・・一切質問されることなく、まるで“家族の一員のように”歓待された。」
と、バイアスのない率直な感想を残している。
内容は面白かったけど、構成のためか翻訳のためか読みにくくて時間がかかった。
2020年6月24日
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グレングールド、音楽、精神
- ジェフリー・ペイザント
- 音楽之友社 / 2007年9月15日発売
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(2020/6/4読了)
本書はピアニストの伝記ではなく、グレン・グールドという音楽思想家の仕事を批判的に論じたものである。
なにより、グールドが寡黙な変人ではなくて、意外に饒舌なコミュニケーターであることがわかる。
いわゆるコンサート活動をやめてしまった理由も詳らかだが、「聴衆が演奏会に来る理由は音楽とは無関係だ」という言葉が刺さった。
2020年6月4日
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奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの
- 久住邦晴
- ミシマ社 / 2018年8月28日発売
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札幌の西区琴似にあったくすみ書房。そこの「オヤジ」が遺したモノローグである。
不況の本屋業界において、さまざまなアイディアを駆使して事業が再び伸びていくところは痛快だけど、そのウラでは七転八倒、青息吐息、ビジネス環境が激変する中で頭を限界まで絞り、資金繰りに奔走する日々が続く。
やがて琴似を去って大谷地に移転、そしてついに破産。その後ようやく一つの方向性が見えたところで病を得、志半ばで亡くなってしまう。本書はその途中でプッツリと終わる。やりきれない。
「本屋」に未来はあるのだろうか。
2020年1月1日
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死にとうない (新人物文庫 ほ 1-1)
- 堀和久
- 新人物往来社 / 2010年6月7日発売
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「□△○」の揮毫や、ヘタうま系?ゆるゆる系?な戯画で有名な江戸時代の禅僧、仙厓義梵和尚の伝記、てゆーか小説。
いまわのキワの言葉が、タイトルの「死にとうない」だが、高僧に似つかわしくない未練の言葉。その真意に至る過程が凄いんである。高僧である以前に人間だもの、それはそれは煩悩と迷いにまみれた半生だったのである。そうした煩悩と向きあってこそ、見えてくるものがある。
胸打たれる生涯であった。
2019年12月26日
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眠れないほど面白い 空海の生涯: 1200年前の巨人の日常が甦る! (王様文庫 D 12-14)
- 由良弥生
- 三笠書房 / 2019年1月30日発売
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空海、その誕生から死までをやや小説仕立てで描く。空海の出自や遣唐使の雰囲気などは面白かったけど、空前の天才っぷりやカリスマ性の描写みたいな部分はあまりなくて、「眠れなくなるほど面白い」というほどではなかった。
伝説や想像の部分は極力排して生涯を追った、とあるけれど、のっけから架空の人物(空海に留学を勧めた「ある沙門」を女性に見立てた)が配されていたりして、いいのかなあ、と思う。
「それによると--」など、かなり頻繁に出て来る決まり文句を始め、文体もイヤだった。
2019年7月31日
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シベリウス (作曲家・人と作品シリーズ)
- 神部智
- 音楽之友社 / 2017年12月21日発売
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著者は、ヘルシンキ大学大学院で音楽学を専攻した日本人。同時代・同国人の研究と、こういう読みやすい本にまとめてくれたことが本当にありがたい。
シベリウスについては、少し古い伝記を2冊ほど読んだことがあるけど、より新しいシベリウス像を知ることができる。
思っていたよりもはるかに借金まみれ(浪費癖があったらしい)、酒まみれ(友人や人付き合いを大事にする面もあったらしい)、苦悩まみれ(極端なあがり症だったり、創作への強いプレッシャーがあった)な人生だった。
かわいいアイノ(妻:本当にかわいい)を泣かすんじゃないよ・・・って感じ。
例の8番?を焼き捨てたことについても、「火刑」という表現を使うほど鬼気迫る決断だったようだ。
歴史に名を残すような作曲家というのは、こういう激しい面を持っているものなんだよなあ。
2019年6月9日
村松友視氏が、北の富士の人となりについて綴ったルポ。
北の富士氏は、現在はNHK等の解説者として、その着流しの粋さ・色っぽさや、歯に衣着せぬけどどこか温かみがある語り口で人気を博している(と思う)。病気をしてから出演回数がやや減り気味のようだけど、初日や千秋楽のTV中継は北の富士氏見たさにチャンネルを合わせる、という部分も大いにある。
この本では、生い立ちから現役時代(名だたる遊び人ではあったけど優勝10回のなかなかな横綱であった)、親方時代を通しての毀誉褒貶や、遊びとここ一番の集中力を「正(バンカラ、コーハ)と負(ナンパ?)の往復運動」と位置づけて語る。男・北の富士の軌跡が分かるとともに、氏の魅力がいっそう深まる書であった。
2017年8月27日
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秘密諜報員ベートーヴェン (新潮新書 366)
- 古山和男
- 新潮社 / 2010年5月1日発売
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タイトルからして痛快なトンデモ本かと思ったら、意外な説得力に戸惑いを覚える。
ベートーヴェンに「不滅の恋人への手紙」というのがあるが、誰宛なのかが分からず議論になっているという。これ、実は敵対する重要人物の動静を伝える、一種の暗号の手紙だったと解く本なのである。ナポレオンの支持勢力(ベートーヴェンはこっちに属する)と敵対勢力の権謀術数の話が絡む。
諜報員と言っても、スパイ活劇の登場人物的な話ではなく、この時代の著名人は大なり小なりこういう役割を担っていたんじゃないのかな。
ナポレオンやエステルハージ(ハイドンのパトロンの息子)といった名前、プラハ、カルルスバードなどヨーロッパの地勢関係などがわかるのもいい。
2017年6月25日
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ドヴォルジャーク (作曲家・人と作品シリーズ)
- 内藤久子
- 音楽之友社 / 2004年9月1日発売
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ドヴォルジャークの伝記。
ドヴォルジャークは、いろいろあった音楽家と比べると比較的幸福な人生を歩んだようだ。下積み時代の貧乏や、オペラの度重なる失敗はあったが、大きな挫折や病気などは見あたらない。あまり「肉声」みたいなものが書かれていないからかな?
プラハ(今チェコ)が、意外にヨーロッパの文化文物の結節点であったことを知る。特に音楽に関してはウィーンの音楽(ハプスブルク)とスラヴの伝統的な音楽とが出会うのにいい地の利だったようだ。そういえばアメリカとチェコの融合なんかも、そういう文化的バランス感覚あってのことなのかも。
2017年6月5日
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武満徹・音楽創造への旅
- 立花隆
- 文藝春秋 / 2016年2月20日発売
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なんの折だったか、ふと立花隆氏って最近見ないけど(例によってオレが見ないだけの話だけど)、どうしてるのかしらと思って調べてみたら、思いがけず武満徹氏の本を出していることを知った。
届いてみてびっくり、ゆうに780ページあり、しかも開いてみたら二段組、活字がページの隅までギッシリという大著であった。
まあ、氏の著作はいずれも大著が多いが、これまでいくつか読んだ限りでは、長くても面白く読み通せるのが常である。テーマというか背骨がビシっと決まっているのと、文体(ロジック)がきれいなせいではないかと思う。
そういうわけで、この本も大変面白く読んだ。
「文學界」という雑誌にかなり前に(武満氏の存命中から)連載されたものだそうだが、綿密な文献検索とインタビュー(武満氏やその周辺の肉声)がほぼ切れ目なく混交した、リズミカルな文章で氏の足跡を追っていく。
作曲家(音楽家)を志すきっかけとなった「蓄音機のシャンソン」のこと、街角でピアノの音が聞こえるたびに、その家に触らせてもらいに行ったこと、病気(結核)のこと、「デビュー作」酷評のこと、「ノヴェンバー・ステップス」の成立過程(と、前にも読んだ名手たちとのやりとり)、幅広い交友関係、音(だけでなくものごとの成り立ち)に対する鋭い感受性と洞察、そして何より「ノヴェンバー」後も含む、人生を通した音楽的な変転など・・・。これまで見聞きした内容がいかに点描に過ぎなかったと思わさる、その深掘りぶりには圧倒された。
しかし本の2/3辺りまで来たところで、突如として武満氏が亡くなってしまう。インタビューが柱の連載ゆえ・・・というか、著者自身これからあれも訊こう、これも訊こうと思っていた矢先のできごとで、相当な衝撃を受けたらしい。一読者としても、その巨大な思索が永遠に喪われてしまったことに改めて思いを致さずにはいられない。
そこから先は遺されたインタビューをテーマ毎に配置した記事になるわけだが、どうしても尻切れの印象は残ってしまった。
ともあれ雑誌の連載は最後(がどこなのかはともかく)まで続けられた。単行本化もゲラ刷りの状態までは進んだらしいが、その後18年も寝かされたままだったのだという。それほど、立花氏のショックが大きかったのである。
後書きに、出版がまた動き出した理由が書いてあった。
ショックから立ち直れないまま長年原稿を寝かせてしまったが、取材の過程で知り合ったパートナーの女性(箏楽家)が2015年に癌で亡くなるのに及び、立花氏に本の完成を望んだというのである。
そこから作業は一気呵成に進み、本は昨年上梓された。これでようやく武満氏と、(癌の戦友でもあった)その女性のもとに届けることができる・・・と結ばれる。
最後に、すっかり泣かされてしまった。
2017年5月16日
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ブッダは実在しない (角川新書)
- 島田 裕巳
- KADOKAWA/角川書店 / 2015年11月10日発売
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ゴータマ・シッダールタという人が実在したのは、したらしい。しかし、いわゆる仏教開祖としての個人、ブッダは存在しなかった。と、古い経典や周辺の文献などを追いつつ明らかにする、びっくり仰天の本。
つまり、城の4つの門外で4つの苦しみを見たとか、出家や苦行を経て、菩提樹の下で悟りを開いたとか、食中毒で死んだとか、一人が辿った生涯として伝えられているのはいずれも後世の付会・・・であるらしい。
多くの人の手を渡って来た遠大な思想である仏教に価値がないわけではないと思うけど、それをいささか問題視する筆致なのは、ある人間の極限的体験である「悟り」が出発点でないという辺りか。
一方、キリスト教やイスラム教と違って聖典が一つではないとか、教えの軸がはっきりしないとかいうのは、逆から見れば「融通無碍」という東アジア的価値観とは合致するようである。
2017年4月11日
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さわり: 天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生
- 佐宮圭
- 小学館 / 2011年11月2日発売
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「ノヴェンバー・ステップス」と言えば、作曲家・武満徹の代表作であり、日本の現代音楽の大傑作でもある。
1967年にニューヨーク・フィルの委嘱により作曲された琵琶・尺八・オーケストラのための楽曲で、琵琶奏者・鶴田錦史、尺八奏者・横山勝也、指揮・小澤征爾によって初演された。
サントリーホールでこの3人(+新日本フィル)の演奏を聴いた時は、琵琶の鶴田錦史という人は男性だと単純に思ったが、割と最近この曲について調べていて初めて女性であることを知った。驚いた。しかしいでたちは紋付き袴であり、どう見ても男装である。これはどういうことなのか。気になってさらに調べてみると、この本に行き当たった。
琵琶の天才少女と言われながら、やがて運命に弄ばれるようにして子らを捨て、琵琶を捨て、女であることも捨てた。強面の親分さんのような風体を身に纏い、後半生を「男」として過ごしたのである。新興喫茶やナイトクラブのような事業を次々と成功させ、財をなした。その後、琵琶に戻るとその再興を期して奔走した。そして武満と出合い、オーケストラと競演し、世界的評価を得るに至る。その火の出るような生き様ゆえに、紡ぎ出される音にも凄まじいものがあった・・・そんな物語が綿々と綴られていくのである。
「さわり」とは琵琶独特の音質をつくるものであり、弦が棹に「触る」ことだと思うが、「障り」に通じるともいう。例えばギターのような「ポーン」という音ではなく、「ビーン」という音、すなわち耳に障るようないわば雑音をわざと含ませることにより、複雑でより自然の奥深い響きを作り出すのだという。この辺も、前に読んだ「密息」の本に出て来る尺八の音作り、ひいては日本古来の感受性にもつながる話であり、面白い。
なお、琵琶という楽器が昭和初年の芸能の主役であったことや、その後人気奏者の死や戦後の洋楽の席巻などによって急速に衰退していく風景も興味深かった。
2017年1月5日
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ビューティフル・マインド[AmazonDVDコレクション]
- パラマウント
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ロン・ハワード監督、2001年、アメリカ。
ゲーム理論やナッシュ均衡という言葉で一般には知られている数学者、ジョン・ナッシュ氏の伝記映画。
優れた数学的才能を持ち、念願叶って入った研究所で「数学界最大の難問」に取り組むうち、やがてソ連のスパイが雑誌や新聞に暗号を組み込んでいる、という幻覚に取り憑かれるようになる。統合失調症であった。それを乗り越えて行くヒューマン・ドラマでもあり、献身的に尽力した妻との愛の物語でもある。
映画上、迫真の幻覚(統合失調の症状)と現実との境目がないために、観ている我々もちょっと存在のあやふやさというか、妙な気分になる映画であった。存命中(当時)の著名人をよく扱ったな(なかなか難しいプロセスだったろうな)、とも思う。
病気を乗り越え、ナッシュ氏は1994年にノーベル経済学賞を受賞している。
2018年7月21日
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ソーシャル・ネットワーク [DVD]
- デヴィッド・フィンチャー
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デヴィッド・フィンチャー監督、2010年、アメリカ。
意外によくできたIT起業ビジネス映画かも。
Facebook発案・創業の経緯を描く。アイディアを盗んだ/盗んでないの法廷闘争が軸線となっている。
公開当時、ザッカーバーグの「嫌なヤツ」っぷりが描かれているという評を目にしたけど、むしろコミュニケーションがうまくできないナイーブな青年、というニュアンスがうまく描かれているように感じた。
ボストン(ケンブリッジ)の学生街の雰囲気、「アメリカのエリート像」なども見どころ。
2017年8月19日
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ラヴェル―生涯と作品
- アービー・オレンシュタイン
- 音楽之友社 / 2006年12月1日発売
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作曲家モーリス・ラヴェルの生涯と作品。
世紀をまたぐ時期の、パリの文化の坩堝の中から生まれ出てきたダンディーな変人がラヴェルであった。フランスよりむしろスペイン(バスク)であった。意外に寡作であった。完璧と簡潔を期す職人であった。など。
巻末の作品解題は詳細を極める。
翻訳に生気がなく読みにくかった。
2016年12月3日
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井村雅代 不屈の魂: 波乱のシンクロ人生
- 川名紀美
- 河出書房新社 / 2016年6月27日発売
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あの井村先生の一代記。
何たって教え子たちを厳しく怒鳴りつける姿が思い出ささるけど、この本を読むと怖いだけではない、シンクロを目指す子たちへの深い思いがわかる。中国のコーチを引き受けた真意もわかる(是非はともかく、中国のスポーツ育成に対するマジ度や、翻って日本の意味不明さも際立つ)。水着、音楽、振り付けへのこだわりと、いかにぶれない物差しを持っているかもわかる。教え子たちを「ほめれば慢心し、叱ればぺしゃんこになるゆるキャラ軍団」と呼んだ。
文章も小気味よく読みやすい。井村さんに惚れ込んだ人は少なくないというが、著者自身もその一人なんだろうな。
2016年10月31日
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数学者列伝 天才の栄光と挫折 (文春文庫 ふ 26-2)
- 藤原正彦
- 文藝春秋 / 2008年9月3日発売
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ガロワ、関孝和、チューリングといった数学の天才たちの逸話。
天才たちゆかりの地を実際に訪ね、その様子も交えて描写されていて、味わい深い紀行文にもなっている。(サスガ著者は新田次郎氏のご子息)
2016年9月24日
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北の詩と人―アイヌ人女性・知里幸恵の生涯
- 須知徳平
- 岩手日報社 / 2016年6月1日発売
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知里幸恵さん、と言えばあの「銀の滴降る降る・・・」に始まる「アイヌ神謡集」の著者として、またアイヌ語辞書などを著した知里真志保氏の姉としても知っている。
ただ、思えばそれ以上のことはあまり知らなかった。
その知里幸恵さんの生涯を描いた小説である。
この本を知った新聞の書評には、事実とは異なる描写がある・・・とあって若干の割引は必要なようだが、それでも当時のアイヌ民族を取り巻く状況や、幸恵さんの祖母や伯母から受け継いだ特異な才能といったものが垣間見られて、非常に興味深く読んだ。
中んづく、当時においてさえアイヌ語と日本語の両方を自由に操る人は希少だったこと、文字を持たなかった(裏を返せば文字を必ずしも要しなかった、のかも知れない)記憶力・構造力に優れたアイヌ民族の中でも飛び抜けた能力であったこと、キリスト教に根ざした他を思いやる気持ちや高潔な生活態度などには心打たれるものがあった。一部採録されている書簡や日記(なんと丁寧で豊かな文章)も、貴重な記録だろう。
2016年9月21日
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私が独裁者?モーツァルトこそ!―チェリビダッケ音楽語録
- シュテファン・ピーンドル
- 音楽之友社 / 2006年11月1日発売
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往年の名指揮者、チェリビダッケ。カラヤンなんかに比べるとやや傍流で「渋好み」なポジションだったようである。
その音楽に向かう厳しさゆえなのか、毒舌でも知られる巨匠だが、その毒舌を集めた本である。
と書くとちょっと悪趣味な気もする(笑)。
発言の特定の部分だけを抜き出すと、どうしても曲解が入り込む余地があるだろうし。
でも、おもろいもんはおもろい(笑)。
アバドに対して「才能なく、厄災」とか、カラヤンに対して「指揮ぶりはマヨネーズを混ぜているごとし」とかこき下ろす。氏特有の、レコード(録音)への罵詈雑言もある。一方、ブルックナーやフルトヴェングラーへの愛が語られる。
音楽の考え方については哲学的で難しい言葉もあるが(禅にも傾倒していた)、稀代の個性の一端を垣間見られる本なのである。
2016年8月15日
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私の記憶が消えないうちに デコ 最後の上海バンスキング
- 吉田日出子
- 講談社 / 2014年11月28日発売
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吉田日出子さん。
先日ふと、近ごろ見かけないけどどうしているんだろう?と思って・・・ま、TVも舞台も見ていないオレが見かけないもないもんだけど、ちらっと調べてみたら、高次脳機能障害を患っていて、せりふを覚えるのもままならない状態なのだという。
で、その辺の経緯や、自由劇場を含めた来し方を語った本が出ているというのを知って、一も二もなく買ってみた。
生まれや生い立ち。学校生活。お母さんや姉妹とのエピソード。演劇、そして自由劇場との出会い。周囲の名だたる演出家・役者さんたちから得た薫陶や刺激の数々。歌。(医師であるお母さんのインタビューも素敵だ) 時に破天荒で、トンデモで(浮き名も流した)、自分の想いに真っ直ぐで・・・。
面白うてやがてちょっぴり哀しい、でも飽くまでも明日を夢見ることは忘れない、まさに自由劇場のお芝居を地で行くようなデコさんの一代記であった。
2016年6月24日
田原総一朗氏に、ジャーナリスト矢崎泰久氏がインタビューした本。
田原氏の生い立ち、学校で何を考え、勤めた会社で何をやって来たか、どんな本を読み、どのような態度・作法で仕事に臨んで来たか、そんなことを引き出そうという試みです。
なにか勉強しようと思ったわけではなくて、Wikipediaで山下洋輔氏の項を読んでいる時に、「バリケード封鎖されていた大隈講堂からピアノを運び出し、その地下でコンサートを行い、その様子を撮った」なんていうとんでもないエピソードに出くわしたから(それが載っているのが本書)。
その話はともかく、田原氏の強さとすぐれたバランス感覚の源泉、すなわち決してウソをつかない、二枚舌を使わない、秘密を作らない(だからこそ誰に対してもおもねることがない)という潔癖さや、そもそも人が好き、人に会うのが好きという行動原理などがわかります。
10年ほど前、小泉政権の時代の本ですが、アメリカとの関係(「ユニラテラリズム」)や自民党(「護憲」・親切軽税から改憲・冷酷重税へ等)の変質を鋭く突いているほか、民主党の政権奪取とその後のていたらくなどを予見するような発言もあり、現今の政治に対してこのようなご意見番の存在する幸運と、それにも関わらずいい加減を押し通そうとする現政権のアヤウサにまた意を強くする内容になっています。
すでにご高齢なので心配ですが、元気でまだまだ活躍してもらいたいもんです。
2015年8月14日
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奇跡のホルン
- スティーヴン・ペティット
- 春秋社 / 1998年12月10日発売
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20世紀前半に活躍した天才ホルン奏者の生涯。
いいオケはホルンが上手い・・・というのがまことしやかな定説になっていますが、ま、言い得てると思いますな。
本書は、祖父、父・伯父が揃ってホルンの名手という家系に生まれ、空前絶後の表現力とテクニックを合わせ持った天才ホルン奏者、デニス・ブレインの生涯を綴ったものです。銀の匙ならぬ、銀のマウスピースを咥えて生まれて来たと。
サブタイトル(「デニス・ブレインと英国楽壇」)にもあるように、時代はちょうどイギリス楽壇の興隆期。ロンドン・シンフォニー、BBC交響楽団、フィルハーモニアといった世界的オーケストラの誕生や、バルビローリやカラヤンを始め同時代の名音楽家たちの活躍と相交じり合いながら、時にオーケストラのトップとして、時にソロとして、また室内楽で、世間の耳目を驚嘆させながら八面六臂の大活劇を演じるさまが小気味よく描かれ、一気に読まさりました。
デニス・ブレインの演奏は今やYouTubeなどで見る・聴くことができますが、確かに音質は豊かで明晰、タッチは柔らかく確信に満ち、曲想はおおらかで・・・と本当に褒め言葉しか出て来ません。こうしたプレイヤーの存在が並み居る作曲家たちの創造力を刺激したことも含め、ホルン自体の可能性を飛躍的に拡大させたというほどの大物なんですね。
巻末にその「天才たるゆえん」がまとめられていますが、家族からうけついだ歯並び、強靱な顎や心肺や精神力、曲解釈や合奏においての天性の勘などなど、まさに天才しか天才になれないのだということですね。一体、もう少し努力なり苦労なりという側面はなかったもんなんでしょうか(笑)。
さて惜しむらくは、デニス君は1957年、自らハンドルを握る自動車の事故により、36歳の若さで突然世を去っています。当時の音楽界が受けた衝撃は想像するに余りありますが、これも天才の宿命のひとつなのかも知れません。
2015年8月13日
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バッハ (カラー版作曲家の生涯) (新潮文庫)
- 樋口隆一
- 新潮社 / 1985年4月29日発売
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「音楽の父」とも言われるヨハン・セバスティアン・バッハの生涯。
バッハの時代、音楽は音楽家自身や一般市民のものではなく、王侯貴族や教会のものであった。
作曲家/楽士はそうした権威に雇われ、音楽も権威者の好みや要請のもとで作られ演奏されるものであり、自由ではなかった。バッハも、自ら楽器を演奏したり文化振興に熱心な領主のもとで充実した音楽生活を送ったかと思うと、領主の新妻がたまたま「音楽嫌い」であったために予算を削られたり、新しい「就職先」を求めて就活をしたりしている。契約上、多数のカンタータを作って上演せねばならず、多忙を極めた時期もあったようだ。
そのような制約の中にあって、高潔で偉大な楽曲を数多く後世に残した。最後(例のライプツィヒ)はあまり恵まれた環境にはなかったようだが、思ったほど「死後、忘れられた存在」になったわけでもなく、息子たちも広く尊敬を集めたらしい。
著者はバッハ関係の著作が多数ある人で、図版の多い文庫本ということもあって気軽に楽しく読めた。
2015年8月13日
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若者だけの林業会社、奮闘ドキュメント 今日も森にいます。東京チェンソーズ
- 青木亮輔
- 徳間書店 / 2011年4月27日発売
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東京農大探検部出身、あくまでも明るく愉しく、話好きで前向きで・・・。
林業の新境地を開く、東京チェンソーズの若き創業者・青木氏の人となりを探る本。
筆致が少々軽くて、芸能人本みたいだな、と思った。(取材・構成は前に読んだ「林業男子」の山崎氏である模様)
2015年5月14日