私はお化け屋敷へは行かない。
本書で言うところの「固定化されている自分が揺らぐことが不愉快だ」と思うタイプだからだ。
ということを、本書によって知った。
たまたま先日こういったことを考えていたのだ。
「人はなぜわざわざお化け屋敷へ行くのか」
「なぜわざわざ怪談を聞きたがるのか」
怖い思いをすることが100%わかっているのに、どうしてあえてその体験をしようと思うのか。
好奇心なのか。好奇心だとしたらそのメカニズムはどうなっているのだろうか。
そういう疑問に、本書は的確に答えてくれた。
著者は「お化け屋敷プロデューサー」という今までなかった肩書きを持つ人である。
古めかしくて子供だましだと思われてきたお化け屋敷を、一流のエンターテイメントに変えた実績を持つ人なのである。
その仕事ぶりや発想方法、そもそも恐怖とはなんなのか、娯楽としての恐怖のあり方などについて、詳しく書かれている。
特にすごいなと思ったのは、「信用」と「信頼」の違いの定義だった。ずっとその違いがわからずに来たのだが、ジェットコースターを例にとって非常にわかりやすく解説されている。なるほど、こういうことなのかと、初めて納得できた。
お化け屋敷へ行きたいと思うのは、たぶん日常が安全で安心できるものだという盤石の基盤があるからなのではないだろうか。「作り物だ、この恐怖は自分の想像力が作り出しているものだ」という理解と、にも関わらず沸き起こる感情の絶妙なバランスが「楽しさ」を生み出す。
恐怖と楽しさの関係については本書で丁寧に説明されている。まこと、人間の精神活動というのは複雑で入り組んでいるものなのだなあと改めて感心してしまう。
そしてなにより著者はすばらしいクリエイターなのだ。全力で客を楽しませようと努力し、研究している姿は、創造に関わる者のあるべき姿だと思う。
私にとって、自分が揺さぶられてコントロールがきかなくなることへの恐怖は存在に関わるほどの大問題なので、できるだけそういうものからは距離を置きたい。だから今後もお化け屋敷へ行くことはないだろうが、人にとっての恐怖についていろいろ知ることができたのは大きな収穫だった。
- 感想投稿日 : 2012年8月13日
- 読了日 : 2012年8月13日
- 本棚登録日 : 2012年8月13日
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