切ない、切ない物語だった。
美耶の左手の力は一体なんだったんだろう。
自分の時間を相手のために使うということの象徴的な意味を持っているような気がした。
現実には存在しない力を設定することで、明らかにされることがある。小説にはそれを描く力があるのだ。
平田という少年の章では、「自由」ということの本当の意味がくっきりと描き出される。
嫌ったり憎んだりすることは不自由なことなのだ、と。そこから抜けだしたとき、心は自由になる。美奈子を覆っていた固い殻に亀裂が入った瞬間は、読んでいても息を飲むような衝撃があった。
美耶を愛せない母親の恵子も切なかった。誰もが障害や不幸を受け入れて強く生きられるわけではないのだ。それでも最後は美耶のためにお粥をたいてやろうとする姿が切なかった。
時間は取り戻せない。巻き戻せないのだ。
頭ではわかっているつもりでも、気づけば浪費してただ漫然とやり過ごしている。
美耶の左手は、ほんのちょっと奇跡を見せてくれるけれども、それを本当の意味で受け取ることは意外と難しい。
最終章でまた二人に特別な絆が戻ってきてよかった。
「どんな暗いことを書いても最後は明るさを感じさせるものにしたい」と作者は語っていたが、まさにそういう感じのラストであった。静かで明るくて力強い。
「自分の生命力を分け与えることで他人の傷を癒す」というアイデアは他でも読んだことはあるけれど、美耶くらい無私の人はいなかったなあ。美耶は体は弱かったけれども、心は誰よりも強く自由だったのかもしれない。
- 感想投稿日 : 2011年6月21日
- 読了日 : 2011年3月1日
- 本棚登録日 : 2011年6月21日
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