まほろ駅前番外地

3.76
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本棚登録 : 4666
レビュー : 800
著者 :
片山るんさん 新刊   読み終わった 

三浦しをんを読むといつも戸惑う。いったいこの底なしの暗黒はなんなのだと思うから。冷たい井戸の底から拭きあげてくるひんやり湿った風のような文章の手触りが、心地良いのか不快なのかすら判断できない。
思い余って他の人の感想を探ってみると、これまたまったく予想外の感想ばかりでさらに戸惑う。
「ほのぼの」「心あたたまる」という系統と、「すごく面白い、可笑しい」というコメディとしての評価、あるいは「薄い」「全然おもしろくなかった」という不評の三つ巴なのだ。
私は一度も「ほのぼの」とか「心あたたまる話だ」とか思ったことはないし、声を出して笑うという意味での可笑しさも感じたことがない。
では面白くないのか、薄いと思うのかといえば、まったくそうではなく、むしろ、あまりの底の深さにぞっとしている。どの人物も決して一色ではなく、善と悪が複雑に絡み合い、単純な好悪の判断をさせてくれない。

本作は「番外地」というだけあって、スピンオフ作品が主になっている。特にバスの間引き運行疑惑にとらわれている岡のその夫人の物語であるとか、星良一、田村由良の物語は、番外編ならではの楽しさを味わうことができる。
ラストの「なごりの月」は、次回作へ続く物語なので、宙ぶらりんな形で終わっているが、近々に続編が出るようなのでそれを楽しみに待ちたい。

それにしても、行天。全然好きになれないタイプなのに、どうしてこんなに惹かれてしまうんだろう。おそらく彼が持っているであろう底なしの暗黒に引き寄せられてしまうのだと思う。子どもに対して見せた彼の逆上ともいえる嫌悪感は、いかにも行天らしいと言える。

それとも。
すべてが私の勝手な深読みに過ぎないのだろうか。行天はただのわがまま男で、多田はさえない中年男にすぎないのか? ゲラゲラ笑って読み流せばいいだけの話なのだろうか。
どうしてもそう思えないから、読み終わると気持ちが落ち着かなくてウロウロしてしまう。

レビュー投稿日
2012年6月22日
読了日
2012年6月22日
本棚登録日
2012年6月22日
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