権藤主義 唯一無二の痛快野球論

  • ベースボール・マガジン社 (2023年12月5日発売)
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権藤主義
唯一無二の痛快野球論

著者:権藤博
発行:2023年11月30日
ベースボール・マガジン社

1961年に中日に入団し、新人で35勝。翌年が30勝。歴史に残る大投手!になるはずだった・・・しかし、使われすぎて肩を壊し、次の年が10勝で、通算でも僅か82勝しかしなかった。僕は現役の頃は知らないが、「権藤、権藤、雨、権藤」と言われる連投をしたことで有名。「今日は肩がちょっと」などと濃人渉監督に言おうものなら「たるんどる。肩が痛いくらいで、命まで取られやせん」と一蹴されたそうだ。昔は、みんなそうだったようだ。

権藤は、その後、コーチとして中日を2回、優勝に導き、監督としても横浜ベイスターズを初年度に優勝させている。ところが、ヤクルトの野村克也監督からは、「権藤は野球をわかっとらん」と言われていたらしい。今、解説を聞いていても、明らかに他の解説者とは趣が違う。暖かく見守る中で、バッサリと斬ったりするが、斬る基準が意外だったりする。それが受け狙いで厭味な意外性ではなく、なんだか素朴な視点を感じてしまうから魅力的でもある。

今、中継している阪神戦でも解説をしている。

権藤主義は、昔でいうところの「野武士野球」に近いのではと感じる。けれcど、管理野球を一概に否定はしているわけではない。川上哲治、広岡達朗、森祇晶の野球が面白くなかったということはない、と讃えている。どういうことかと言えば、プロ選手になるような人は、やはり持って生まれたセンスのようなものがあり、そういう彼らに今更なんだかんだと言っても上手くなるわけがない、任せて、その力を引き出せばいいということ。だから、送りバントはしないという。

マウンド上で「力むな」と言ったところで、力まない投手はいない、逆に言われたら余計に力む、だからフォアボールをだしてもいい、とまで言ってしまう。

立浪監督については、批判的な意見を書いている。中日OBとして一度は監督をさせたいと思っていたとしつつ、フタを開けるとがっかり、としている。順位(結果)は仕方がないが、試合後のコメントで選手に「反省」を求めることがいけないという。自分で「合格」を与えて使った選手が活躍しなかったら、仕方がないと割り切るしかないのだと。2022年5月、横浜スタジアムで攻守に精彩を欠いた京田を途中で引っ込め、その場で名古屋へ帰ることを命じて二軍落ちにした。こういう〝強制送還〟を批判する。なお、京田は立浪好みの選手ではなかったことも明かしている。

読んでいると、歯切れがよくて副題のごとく確かに痛快ではある。適度な意外性も盛り込み、気持ちよく読み進むが、じっくり考えるとそうかなあと素人なりに感じるところもある。例えば、外野手出身の名監督はいない、と主張する人は多い。というか、それが定説に近い。ところが、権藤は「外野手出身監督優位説」を取る。

緒方孝市(広島)、秋山幸二(ソフトバンク)、真中満(ヤクルト)の3名を挙げる。「外野は引っ込んでろ」という言葉に象徴されるように、外野手は常に蚊帳の外で、マウンド上の会議にも加わらない。そんな疎外感に対する忍耐感があるからこそ、勝負に対して達観ができるのだという。これは大いに疑問。確かに緒方はリーグ3連覇しているけど、歴史に残る印象的な名監督だろうか。川上哲治、西本幸雄、上田利治、野村克也、広岡達郎、星野仙一・・・やっぱり内野手出身の監督の方が名監督と呼ぶに相応しいと思うが。ああ、もちろん、長嶋、王の両監督も入れておかねば。

コーチをクビになった経験2度のことも書いている。オリックス仰木監督と中日の高木監督。高木守道は最高の二塁手だと絶賛しつつ、監督とコーチの間柄ではうまくいかなかったようで、経緯を詳しく書いている。天才監督ならではの弱点として、気の短さをあげている。守備の特訓で、選手がうまくやれないと「なんでできないんだ。もうヤメ」と投げ出す。瞬間湯沸かし器であると。

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山本昌は、軟体動物のようなとらえどころのなさで、年齢の壁もぬらりとすり抜けてきた。

イチニのサンで合わせられる投手は、速くても打者からは打ちやすい。手投げがいい。大谷翔平も、大リーグに行った当初は体を使っていたので打たれたが、手投げに変えてから、体と腕の動きにギャップができて、打者はどんどん間合いが取りづらくなっていった。

大谷はストイックで野球以外に目もくれず、写真誌にスクープされたといっても、食事会に参加した著者の娘とのツーショットぐらい。

監督やコーチは、投手が投球練習をするのを観察する場合、キャッチャーのすぐ後ろではだめ。隣の斜め後ろから見る。真後ろだといいように見えてしまう。斜めから見るわけは、試合本番でベンチから投手を見るから、その視点が定位置のため。

一昔前は、監督になる前に二軍監督やコーチなど指導者修行をすべし、というのが定説だった。しかし、栗山英樹監督や工藤公康監督が定説のウソを証明した。

(著者の)友人である松山千春は「うまい歌い手はアマチュアにもたくさんいる。だけど、プロはそれだけでは売れない」、プロスアルファがないとお金を取れる歌手にはなれないという。野球においても同じで、プラスアルファの味とは、度胸とか遊び心に行き着く。

アドバイスは抽象的ではなく、具体的かつ実践的でなくてはならない。例えば緊張している選手には、リラックスしろではなく、「肩を下げろ」と言っている。「力を抜け」もだめ。

近鉄時代、ブライアントが悩んでいるとき、現役大リーガーだったオグリビーが「スイング・ザ・バット。ハード・コンタクト」とアドバイスした。2017年のWBCでコーチを務めた著者は、鈴木誠也(当時広島)にその言葉をそのまま伝えた。後で会った時「あの話を覚えているか」と言うと、鈴木は「スイング・ザ・ベスト、でしたっけ?」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年5月16日
読了日 : 2024年5月16日
本棚登録日 : 2024年5月16日

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