虚像の砦 (講談社文庫)

3.72
  • (95)
  • (206)
  • (178)
  • (24)
  • (4)
本棚登録 : 1154
レビュー : 152
著者 :
いけださん 本・雑誌   読み終わった 

いやー。
いやー、これはまたすごい小説を書いたなあ。
読後、そんな感覚でいっぱいでした。
頭の中が「いやー」で埋まってしまうほど。

『<a href=http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=4062753537>ハゲタカ</a>』を書いた真山仁氏が、今度はTVを題材に書いた本作。
『<a href=http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=4062753537>ハゲタカ</a>』を読んだ方に説明は不要でしょう。
圧倒的な状況描写力と、とんでもなくexcitingなstory-telling。
その、娯楽小説として卓越した、読者を作品に引き込む力は健在です。
それどころか、さらにその力が増したんじゃないかとすら思いました。
ぐいぐい引き込まれて、時間が経つのが本当にあっという間でした。

前作を読んで、この作家さんは金融系の小説を書く人なんだと勝手に感じていました。
そんな認識を持っている人も、たぶん少なくないんじゃないかなと思います。
しかし、本書を読めば、その認識が引っ繰り返る事は間違いないでしょう。
真山氏は、生粋の文章書きなんだなと思い知らされると思います。
その空気感は、『<a href=http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=4167659034>クライマーズ・ハイ</a>』の横山秀夫氏と同じものです。
ビリビリと肌を刺すかのような臨場感。
これは、紛う方無き"documentary"です。

本作は、大きく三つの視点を切り替えながら進んでいきます。
「報道」「お笑い」そして「総務省」。
現実に起こった事件とシンクロさせながら、PTBというTV局の内部を描き出します。
取り上げられる主な事件は、<a href=http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%82%E6%9C%AC%E5%A0%A4%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E4%B8%80%E5%AE%B6%E6%AE%BA%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6>坂本堤弁護士一家殺害事件</a>と<a href=http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E4%BA%BA%E8%B3%AA%E4%BA%8B%E4%BB%B6>イラク日本人人質事件</a>。
前者は背景として、後者は物語の中心として、舞台となるPTBを包みます。
そして、それらの内部で行われていた「かもしれない」物語を、真山氏の想像力が紡ぎ出します。

終盤、登場人物の一人である織田馨の台詞に非常に共感しました。<blockquote>私個人は、報道に人が関わる以上、客観報道などあり得ないと思っています。ですから、ある程度の主観が入るのは当然です。大切なのは、様々な角度で事件が取り上げられているかどうかだと思います。</blockquote>本当にその通りだと思います。
いまのTVが個人的につまらないと思うのは、総てが画一的に過ぎるからです。
報道だけではなく、あらゆる番組作りに局としての個性が感じられない。
はっきり言って、同じ題材で横に並べれば、NHKに勝てる民放は無いと思うのです。
だからこそ、それぞれ独自の色を出して、独特の番組を作らないといけないはず。
そういう風にして、かつての民放は伝説の番組を作ってきたはずなのです。

そしてもうひとつ、黒岩宗一郎が語る台詞です。<blockquote>「なあ宗佑。私はテレビというメディアを否定するつもりはない。テレビとは、大衆に理屈抜きの娯楽と笑いと感動を与えられる力を持っている。だが同時にテレビには、見た人すべてを囲い込んでしまう危ない魔力もある。音や画像処理で見る人を釘付けにし、映像のすべてを信じ込ませる力を持っている。これは危険だぞ。報道の体たらくも目にも余るが、それ以上に怖いのがおまえさんたちだ」
「私たち、ですか・・・・・・?」
「そうだ。バラエティと呼ばれとる番組で、やっていることは何かね。自分より弱い人を血祭りに上げて笑い飛ばす。一番ゲスな笑いだ。しかも視聴者には、今日が幸せだったらいいじゃないかという諦めを刷り込み続けている」</blockquote>これも本当にその通りだな、と思います。
そしてその傾向は、TVという枠を超えて浸食を続けている気がします。

ネット上では、相も変わらず既存メディアへのbashingが渦巻いてます。
これも、結局のところは画一化に過ぎないのですよね。
それぞれ個人が、それぞれの価値観に基づいた判断が出来なければ、ネットの長所は消失します。
TVにはTVにしか出来ないことがあるし、新聞には新聞にしか出来ないことがある。
総ての物事には役割があって、それは媒体が変わったとしても本質は変わることはない、と思います。
そのことを、netizenたちが心底から理解できれば、あっという間に世界は変わる。
Netizenの総てが理解出来なくとも、2〜3割程度が理解出来ただけでずいぶん違ってくるでしょう。
本書の随所から、そんな未来が透けて見えてきた気がしました。

基本的に、あらゆる表現は"Entertainment"だと思います。
そして"Entertainment"は、発し手と受け手が同調したときに最高の面白さを発揮します。
本書は、その事を素晴らしい物語に載せて、伝えてくれた傑作だと思います。

レビュー投稿日
2018年11月13日
読了日
2008年10月20日
本棚登録日
2018年11月13日
0
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『虚像の砦 (講談社文庫)』のレビューをもっとみる

『虚像の砦 (講談社文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。
ツイートする